乳豆腐〜母牛からの素敵なお裾分けの味に幸せ気分〜
これはチーズ?ミルクの味がほんのり甘く、柔らかく、なんと優しい幸せを感じる味。こんな食べ物があったのかと驚いた。奈良の各地を巡っていると、市場には出てこない生産地でしか食べられないものがある。
今回はそんな一品、乳豆腐(ちちとうふ)を紹介しよう。忍海(おしみ)酪農組合の組合員、葛城市山田で酪農業を営んでおられる伏見詔子さん(67才)を訪ねた。
この組合は大正11年に設立された日本で2番目に古い組合だそうであるが、ここ山田地区でも4軒の酪農家を残すのみとなっていて、組合では後継者を広く探しているようである。
さて、乳豆腐。豆腐と名がつくが、大豆は全く使わずに乳と酢だけでつくるものだ。
乳牛が子牛を分娩(ぶんべん)すると、数日間は黄色がかった濃厚でドロリとした乳がでる。たんぱく質や脂肪が多い初乳と呼ばれる乳である。
実は、産後5日間のこの乳は出荷することはできない。人間と同じように初乳は豊かな栄養成分が含まれている。免疫をつけるため子牛に飲ませるのだが、なにせ出る量が多いし、捨てるのはもったいない。
酪農家の家庭ではこの乳から乳豆腐をつくり食卓のごちそうにする。
ではさっそく、伏見さんに乳豆腐を作っていただいた。
大鍋に搾ったばかりの乳を沸かし、煮立ち始めたら濃度が高めの酢を少しずつ加える。煮こぼれないようにゆっくりと優しく混ぜてゆくと、だんだん水分と固形分が分離し固まってくる。
ザルにあげ水分をきると、あっという間に乳豆腐の出来上がり。
できたては熱々でホワッとやわらかい。乳の脂肪分が高いためか、モチモチとした食感がまるでモッツァレラチーズのようだ。
水切りの加減で様々な食感が楽しめる。やわらかめならサラダやデザート、ニョッキやハンバーグなど洋風に。固めなら、スライスしてバター焼き、煮物やみそ汁の具にしても合う。
最近、地元の若い人にも人気で、作ったら連絡して。と、問い合わせも多くなってきた。若い人はサラダなどに、年配者はお刺身感覚で食べるのが好評なようです。と伏見さんは語る。
生まれた子牛を育てるための様々な栄養成分が豊かな初乳は、母の愛情を伝える遺伝子も含まれていて、それが至福な味を感じさせるのだろうか。母牛からの素敵なお裾分けの味に出会い、幸せ気分で帰宅した。
持ち帰った乳豆腐は、わさび醤油(じょうゆ)で晩酌の肴(さかな)にし、ありがたくいただいた。鍋物やサンドイッチの具にしてもおいしい。
乳豆腐は市販されている牛乳でも作ることができるが、乳固形分や栄養成分が初乳に比べると格段に少ないので、本物を食べてみたい方は伏見牧場へ。
お問合せ先〒639-2138 葛城市山田278 TEL0745-69-2120
NPO法人奈良の食文化研究会 木村隆志
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