聖天さんの大根炊き


身体の毒と厄を払って新年を迎える
師走にはいり冬本番となった。冬野菜がおいしくなるが、代表格に大根がある。多くの野菜と同じアブラナ科だが属ではダイコン属ダイコンと特別な位置にある。原産は地中海地方とも中近東とも、一説では日本ともいわれる。英名ではdaikon radish と言われ、あの長大な根は日本特有らしい。
日本では栽培面積も生産量も野菜では不動の第1位である。煮てよし、漬けてよし、生でよしと「万能」で、ビタミンC、A、B、鉄、リン、カルシウム、消化酵素を含み、辛み成分は胃液の分泌促進、整腸、痰切りの働きがある。 冬の風物詩の中に「京都のだいこだき」があるが、どっこい、奈良にも堂々たる「大根炊き」があるのをまだ多くの方がご存知ないらしい。
12月1日の生駒宝山寺では深夜0時とともに、大釜で炊かれ宝山寺味噌のタレをかけた大根約1千本が参拝者にふるまわれる(14時まで)。

生駒山は伝承では斉明天皇の元年(655年)に役行者が開いた修験道場「大聖無動寺」で、空海も修行したとされ、本尊も不動明王(重文)であるが、江戸時代1678年に湛海律師が再興し、鎮守神として歓喜天(聖天)を祀ったのが事実上の開山という。
東京の待乳山(まっちゃま)聖天とともに日本の2大聖天とされ、商売の神として特に大阪庶民の信仰を集め、参拝者は年300万人という。

聖天は仏法の守護神で、秘仏とされる象頭人身の男女神2体の抱擁形像で、悪神であった男神が観世音菩薩の化身の女神によって仏法を信奉、守護神となったとされる。象徴は砂金の巾着と大根であり、現世利益と体内の毒消しを表しているという。
つまり「大根炊き」はお供えの大根のおさがりをいただき、1年の毒を消して新年を迎えるという意味があるのだ。深夜の寒風の中多数の参拝者に驚きながら、熱い大根炊きを「ふうふう」といただき、世話をされている宝山寺青年会の会長上田全宏(うえだまさひろ)さんと奥さまに、お話を伺った。

聖天さんで大根炊きが始まったのは数十年前でそう古くはないらしい。あつらえも含めてお供えした大根を前日朝から機械でカットし、内径4尺の大釜に生駒の水と米(あく抜き用)、お供えの酒を入れて3時間、これを6回繰り返してやっと千本が煮上がる。これを大鍋に移して、特製の宝山寺味噌を酒で煮たタレをかけて参拝者にふるまう。宝山寺味噌の製造は、大量に奉納された酒を使用し水は一切使用しないのが特徴だ。以前は寺の台所だったが、大量になり今は上田さんの工場で、特選の原料を求め、精魂こめて製造されている。まろやかでコクがあり大変おいしい。「ふろふき大根」との相性もぴったりだ。 読者の皆さんには来年ということになるが、是非参拝されて大根炊きをご賞味いただき、体の毒素や厄を払って新年にはしっかりご利益があるようお祈りされることをお勧めする。

NPO法人奈良の食文化研究会  瀧川 潔
 TEL:090-1021-0460



作ってみよう「聖天風ふろふき大根」


「材料(2人前)」
大根(中)1本、米一つかみ、日本酒適量、宝山寺味噌好みの量(味噌を酒で煮る。好みで白ゴマを入れる)、柚子皮少々。煮物用鍋

「作り方」
@大根は大きめの輪切りにし、面取りして中心に十文字の隠し包丁を入れる。
A鍋に水と酒適量に米一つかみを入れ、大根を煮る。
B煮上がったら、器に盛り、宝山寺味噌をかけ、柚子皮の細切りを散らして出来上がり。熱々を食する。(米汁でゆでるのがコツ)