信貴山の精進料理


〜悠久の歴史に思いを馳せ〜 9月の上旬、事前に予約していた宿坊の一つ、玉蔵院を訪れた。境内はすでに、鐘の音、ご祈祷の大般若の声、去りゆく夏に別れを告げるかのような蝉の声が響いていた。
そこは長い廊下を渡ると、左側には今にも紅葉しょうとしている木々とお堂の屋根が見えた。そして右側にはずっと続く襖の各部屋があった。そんな贅沢な回廊の空間を歩くと、心はもう癒しの境地であった。
お膳はゆったりとした一の膳と、焼き物、揚げ物が中心の二の膳があり、ご自慢はやはり@白と黒の胡麻を使用した胡麻豆腐とのこと。
弾力さと滑らかさで、一瞬に口の中へと吸い込まれていった。A湯葉団子のお吸い物、B冷たいジューシーな冬瓜の田楽風、C刺身の盛り合わせ(こんにゃく、生麩、湯葉)。D「うなぎのかば焼きもどき?」、それは蓮根をすり潰し、蒸した後、タレを掛けて焼いた物であった。また皮に見せるために海苔が付けてあった。Eあんかけ風のひろうす。F天ぷらの盛り合わせ4種類(●椎茸●しめじ●豆乳と葛を練り上げた物を湯葉と海苔で巻いた弾力のある豆乳東寺あげ。●えび芋をつぶし、中に生麩の欠片を入れ、表面に炒り玄米の粒をまぶしたえび芋玄米あげ)。G胡麻酢で和えたずいき。そして味付けは、全体的に素材から出てくるのを生かしたシンプルなものであった。
精進料理と言えば単調なイメージがするが、先の大豆、蓮根といった素材にこだわりつつ、こんなにも美味しい創作が出来るのかと驚いた。この手間を厭わない繊細な工夫は悠久の歴史の中で磨かれて来た宿坊ならではの精進料理であろう(料理の内容は季節により変わります)。そして、これに写経、法話等が加われば、それはもう、別世界に浸る一日となるでしょう。奈良にはそんな楽しみ方が出来るところがある。
尚、精進料理を出している宿坊はこの他に、小堀遠州作の庭がある千手院や参拝者の絶えない成福院がある。いずれも要予約なので直接お問い合わせ下さい。 又奈良が来年、平城遷都1300年を迎えるにあたり、ここ信貴山も来年は12年に一度の「寅歳・記念大法会」がある。これを機に、「精進料理」が奈良の「食」の一つのイメージになれば、訪れる人も楽しみが増えるのではないでしょうか。その時の魅力は「ロケーション、ゆったりと」であるように思える。(精進料理は信貴山以外にもあり)。

「問い合わせ先」玉蔵院 0745-72-2881千手院0745-72-4481成福院 0745-72-2581

NPO法人奈良の食文化研究会  
 TEL:090-1021-0460



作ってみよう「ひろうす」


「材料」
絹こし豆腐一丁、山芋100g、卵白1個分、醤油大さじ1/2、味醂小さじ2、塩少々、片栗粉小さじ3。銀餡用(出汁180cc、醤油小さじ1、味醂小さじ1、塩少々、葛粉小さじ1)

「作り方」
@豆腐を重石等でよく水気を取り、裏ごしする。
A擂った山芋、卵白を入れ混ぜる。
Bすり鉢に移し、醤油、味醂、塩、片栗粉を混ぜ、一日冷蔵庫で寝かす。
C次の日、油で揚げ(団子形に整える)た後、蒸して、銀餡を掛ける。