けんずい弁当


現代人は一日に三度の食事をとる習慣を身につけて生活しているが、その昔、大和では朝食と夕食と一日二食の食習慣のようであった。
農作業の機械化が進んでいなかったその昔、農繁期の労働はきつく、一日三食の食事でも空腹を憶え、仕事の合間に間食しないと体がもたなかったそうである。特に昼食と夕食の間食を「けんずい」と呼び、農作業労働の栄養補給の知恵でもあった。

私の地域、河合町でも四十年位前までは三時頃になると「けんずいしょうか」と、野良仕事を中断して食べに帰ってきたと聞きます。現在は農業もほとんど機械化され、食習慣も欧米化へと様変わりして、「けんずい」を食べる習慣は消えつつある。だが、所々で「けんずい」が名物化され残っていて、上北山村の“めはりずし”都祁の“ほがしわ”弁当のように、その土地で受け継がれているものもある。
西ノ京で「けんずい」を食べられる店があると聞き、早速訊ねてみた。

昭和37年頃から開業の西ノ京にある田舎料理・草ノ戸(くさのえ)だ。草ノ戸とは茅葺屋根の民家のことで、ここは入母屋造りの大和棟の風格ある建物である。大和棟は奈良盆地の自然と共存してきた大和民族の遺産である。

時刻も3時で頃合い。さあ、「けんずいしょうか」という具合である。
出迎えて下さったのは旅館「遊景の宿 平城」支配人の吉田望氏。(草ノ戸は遊景の宿平城の直営店)
まずは目当ての「けんずい弁当」を注文。
もともと「けんずい」は夕食の残りや簡単な3時のおやつ的なものだったのです。と吉田さんは語る。しかし、目の前に運ばれてきたお弁当は、祭提灯を形ちどった赤い本塗りの器。これに四季折々の大和の幸を盛り付けた、味わい豊かな風流弁当である。

提灯の上段は刺身(まぐろ、たい)、煮物(えび、椎茸、昆布巻、ごぼう、インゲン豆、里芋、南瓜、たけのこ、わらび、さつまいも、冬瓜、なす、子いわな、こんにゃく、ひろうす、ぜんまい、生麩)、玉子焼き、山ウドの胡麻浸し(山ウド、こんにゃく、人参)等が彩りよく盛り付けられている。下段は黒米ごはん。また別に、こんにゃくの田楽(赤白)。漬物は大根、五色漬け(この店特製)と奈良漬がついている。
彩り見事な演出と、体にも美味しい味のハーモニーである。吉田英徳料理長の技が光る。ちょっと箸をつけるのが惜しいほど。

薬師寺の二の塔を眺めながらの散策も、ほどよく薫る風が快い。
久しぶりに、ほっこりするひと時を過ごし、帰途の西ノ京駅へ向った。
大和棟 田舎料理 草ノ戸(くさのえ) 電話0742−33−3017(要予約)
けんずい弁当2500円(税別)

作ってみよう「山ウドのごま浸し」


「材料(4人分)」
山ウド150g、人参30g、こんにゃく50g
  { だし(100ml)、みりん(大さじ1と1/2)、薄口醤油(大さじ1と1/2)、砂糖(小さじ1)、ゴマ(大さじ1と1/2) }

「作り方」
@山ウドは長さ3〜4cm、幅3〜4mmの薄い短冊きりにし、酢水でさらし、ゆでておく(皮を使っても可)
A人参、コンニャクも同様に切り、それぞれゆでておく
Bゴマを炒りすっておく(天盛に少し残す)
Cだしをあたため、みりん、薄口醤油、砂糖を合わせる
Dゆでた材料を4の1/2の量で和えしばらくおいてざるにあげ絞る
E5と4の残った1/2量とすりごまで二度和えをし器に盛、ゴマの天盛をする

NPO法人奈良の食文化研究会  
 TEL:090-1021-0460