名水が醸(かも)す曽爾の地ビール


少し早いという「梅雨入り」だが、喉を超すビールの感覚がひときわ恋しい候となった。
県内でも地ビールはいくつかあるが、中でも曽爾の地ビールは、くせのないさわやかなものから、深い味わいのあるものまで揃っているのが特徴という。

早速曽爾に足を運んだが、それもそのはず、ドイツのブルーマイスター、ティム・シュラグヘッケさんの直伝と菊池明醸造士による日独両者の技術がかみ合い、環境庁が選定する「平成の名水百選」にも選ばれた曽爾の名水が土台となる素晴らしい「舞台装置」が出来上がっていた。
この舞台で地ビールの「舞い」を演出するのは、31歳の若きビール担当谷口勝昭さん。
二十歳すぎより両技術者の薫陶を得て地ビール一筋に取り組んできた。


平成十一年ころ、全国の地ビールブームのなか、曽爾にも古い火山地形から湧き出すおいしい「軟水」があることから、ビール製造の「麦の館」建設とレストラン、さらに温泉などの一体事業を目指した取り組みが始まった。専門家を訪ねて両技士に巡り合い、独シュルツ社の機械を導入、若い谷口さんが担当者となり、一からの出発であった。


当初、麦も国内麦産地の桜井や村内産が検討されたが、ビールには不向きで、独、英等の輸入大麦が採用された。麦芽にする工程での混和加減、酵母の発酵工程での乳酸菌の侵入防止など、苦心の末、製造が確立された。しかし、「生き物」を扱う生産で、味を損なう醗酵の失敗は今でもまれにはあり、その場合は一ロット(八百リットル)全てが廃棄だ。

おかげさまで現在は、六本の貯蔵タンクをほぼフルに使用、平均月三回の仕込みを続ける盛況ぶり。曽爾地ビールは、酵母菌の濾過、火入れをしない完全な生ビールで、ビール党にはたまらない。世界の主流である爽快な「ピルスナー」から、ドイツのオールドである深みのある「アルト」、さわやかな苦みの「ケルッシュ」、はてはより深みのある長期発酵「ボック」、極めつけは地元養蚕名残の桑の実使用のロウモルト「夕焼けこやけ」と変化が堪能できる。レストランではドイツソーセージ料理も用意されている。


曽爾には近畿屈指の自然景観、お亀池周辺の新緑や秋のすすき原、鎧岳、兜岳、屏風岩等があり、そして美人湯温泉「お亀の湯」。また、倭武(やまとたける)による「日本漆の発祥の地」でもあり、山粕は伊勢本街道の宿場として、昔「奥宇陀の大阪」と呼ばれた繁栄もあった。トンネルやバイパスで車でのアクセスも良好だ。景観と歴史と温泉にドイツソーセージと地ビール、現代人の癒しの空間にゆっくりとひたる機会を、ぜひお持ちいただきたい。

連絡先:(財)曽爾村観光振興公社 0745-96-2888 総務部長 中河 威さん




NPO法人奈良の食文化研究会  瀧川 潔
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