大和の伝統野菜 美味しい「紫とうがらし」


殊の外の猛暑も一段落となったある日、夏野菜の中でも色が特に珍しい大和の伝統野菜「紫とうがらし」の生産者、大野収一郎さん(48歳)を奈良市横井町の畑に訪問した。 畑には、約200株の「紫とうがらし」と、「ひもとうがらし」も栽培されていた。 双方ともに古くから奈良県で自家生産されてきた「甘味唐辛子」で、奈良県の大和の伝統野菜(18種)に認定されている。 今回は生産が特に減っている「紫とうがらし」を中心に紹介する。

「紫とうがらし」は、古くから奈良市東部を中心に自家生産されていたもので、果実は濃い紫色をしており特別な色の特徴をもつ。 花も美しい紫色6弁の可憐な花で、「古都に似合った」作物である。 また辛いものが混じることがまずなく、果肉は厚い目で柔らかく、中の種も柔らかくて、焼き物、炒め物、天ぷら、つくだ煮など幅広く料理に使用できる。 ピーマンやししとうが嫌な人や子どもも喜んで食べる、大変美味しいとうがらしだが、残念ながら、熱を加えるとその特徴ある紫色は消えて、薄緑色に変わる(アントシアンの発色の変化のため)。 これは「残念というより変化を面白いと見てほしい」と大野さんは言う。

唐辛子の歴史は世界的にそう古くはなく、原産は中南米。コロンブスの新大陸発見で胡椒と間違えて持ち帰られて以来16世紀に、主としてポルトガルによって世界に広められたようだ(英語ではred pepperという)。日本にもポルトガルの宣教師が1452年九州(豊後)の大友宗麟に種を献上との記録があり、南蛮胡椒と呼ばれていた。ちなみに唐辛子が有名な朝鮮には、日本を通じて持ち込まれたとの説が有力である。
唐辛子にはビタミンA、Cが豊富で夏バテの防止に効果があるといわれ、紫色は今注目のアントシアニンで、ポリフェノールとしての抗酸化作用も期待されている。 大野さんは、富雄の農家に生まれ、大学卒業後IT関係の職で大阪、東京にいたが、Uターンして農業を継ぎ今年で3年目、米、野菜、トマトを生産。4Hクラブで活動する萩原健司さんとの交流で、紫とうがらしの生産者が減っている話を聞き、自分がやってみようと決断。土地が手いっぱいだったので萩原さんの土地を借りて生産を始めたとのことである。

県内での生産者は少なく点在しており、数株〜20株の自家菜園が多いようで、市場にはほとんど出回っていない。おいしいから自家生産はするが販売にはつながっていないのだという。8〜10月初旬まで収穫期間は長く、1株当たりの収穫量も多くて病気等も少なく作りやすいのだが、実の大きい「万願寺」や「ピーマン」に比べて選別や袋詰めに手間がかかり、紫の特徴は見慣れないので売るには説明が必要ということもあるようだ。もっとおいしさを知らせて、伝統野菜を広げたいと大野さん。私たちもおいしい紫とうがらしの特徴を大いに「拡散」し広げて行きたいものである。

<メモ> 大野収一郎:080-6530-1555 紫とうがらし 100g 150円 自宅店舗にて販売。
奈良市三碓1-12-20(送荷の場合は1sより。送料はご負担願います)

瀧川 潔



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