宇陀の黒豆――新年の健康を願うおせちの黒大豆、宇陀に伝来説も


「もういくつ寝るとお正月♪」、年の経つ速さに感慨ひとしおのこの頃である。 近年は食べない若い人もいるようだが、日本人は新年にあたって「おせち」を食べてきた。それぞれいわれがあるが、黒豆(黒大豆)をつやつやと甘く煮たものは、子どもにも人気のひと品である。「この1年も真っ黒になってよく働き、マメに(健康に)過ごせますように」との願いを込めて食される。調理に失敗し皮にしわができてもまた「長寿での健康を願って」と立派な言い訳がつく。おせち以外でも近年は黒豆の枝豆として大粒と甘みで人気が広がっている。黒豆はゲンカツギだけではなく、大豆特有のたんぱく質やレシチン、イソフラボン等の他、黒い皮に含むアントシアニンを特徴として科学的にも健康のために大切な要素を持つことが、近年さらに注目されている。肉に劣らぬ蛋白源でありながら、血液さらさら、便秘によく、アンチエイジング効果があるなどは、和食を重視する側からも大変喜ばしい。

大豆の原産地は中国北東部(南部山岳地帯との説もある)のようだが、日本には縄文時代からあり古代も味噌、醤油の原材料であった。黒豆は、丹波が有名だが、奈良では宇陀が特産地、中国からの伝来説もあるとかで、JAならけん宇陀営農経済センターを訪問し、副所長の中森正浩さんと、黒豆部会会長の森本文男さんにお話を伺った。

宇陀市では約25haで4〜5tの黒大豆を生産している。この地は霧が多く、夏は冷涼で温度差が大きく、黒大豆の生産に適している。6月に播種し12月上旬、霜がおりてから収穫となるが、今年は秋が雨で温かく、収穫は年明けになるという。黒大豆は大粒でやせ地では栽培できず、管理にも一苦労があるようだ。収穫して「島立て」で乾燥、脱穀して天日乾燥する。宇陀では昔から黒豆を生産していたが、今の品種は「丹波黒」で、東部農林振興事務所の山本さんによると平成10年、本格栽培再開にあたり、黒豆が縁で姉妹提携していた当時の兵庫県柏原(かいばら)町から取り寄せたという。

黒豆は、実は漢方薬として中国より宇陀に伝来したという「伝説」が宇陀にはある。黒豆は蒸して醗酵、乾燥させ香?(こうし)と呼ぶ生薬となるが、同じく薬用として中国より伝来した茶とともに、宇陀の仏隆寺に伝わったというのだ。森本さんによると、古い寺や神社には供え物として古文書等に記載があるのではと探しているが、見つかっていないという。大宇陀は古来伊勢本街道に沿った交通の要衝で、江戸期には城下町宇陀松山として栄え、森野薬草園もあって生薬の生産集荷地の名残もある。いつの日か黒豆の伝来説が日の目を見るかもしれない。残念ながら現在は生産量も少なく、「大宇陀道の駅」「針テラス」等で販売されているのみである。

「道の駅宇陀路大宇陀」
宇陀市大宇陀区拾生714-1
0745-83-0051

瀧川 潔



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