世界文化遺産・法隆寺と共に歴史が醸した逸品の醤油


11月24日は「和食」の日である。和食文化が無形文化遺産に登録され、今や各国が日本の和食に興味を持っている。それに欠かせないのが日本の伝統的な万能調味料「醤油」である。源泉は、飛鳥、奈良時代には宮中で作られていた穀醤(こくびしお)である。
さて、法隆寺から南に5分程歩いた所に、突然100年昔にタイムスリップしたような醤油の蔵元・ニシキ醤油(株)がある。現在、周りは新しい家に囲まれているが、昔の法隆寺の門前は、ニシキ醤油の建物と大和川まで広がるのどかな農村風景であったらしい。

創業は明治33年、現在4代目である。初代の創業者は、この地の自然の中で、天から降る酵母を利用して何か産業を興し、村民の働く機会を増やすことで村の暮らしを豊かに出来ないものかと考えた。 思案の挙句、クリスチャンである創業者は、お酒でなく醤油作りを始めたようである。
醤油作りには天然酵母の菌の種類、構成等が、五原味(甘み、酸味、塩味、苦味、旨味)と、風味、色を醸すにあたり非常に重要であるという。しかも酵母菌はその地域の自然、生活様式の中で地域独特のものが生まれるらしい。そのことから斑鳩地域の酵母菌は、古来からの法隆寺の参詣による人の往来、また大和川に至るまでの田園風景、そんな悠久の自然環境の中で育まれてきたものだという。 その酵母を創業以来、100有余年に渡って、今日まで蔵の中で継承、育成してきたものが「ニシキ醤油酵母菌」である。
特徴は「香り」。長く寝かされ熟成した本醸造独特の、匂い立つ、食欲をそそる香りは、上手く表現できないのが残念である。そして?味皿(ききみ皿)に注がれた色は、まるで晩秋の紅葉を逆光で眺めるようなクリスタルな赤色である。万葉集の「嵐吹く三室の山のもみぢ葉は龍田の川の錦なりけり」の情景が思い浮んだ。ニシキ醤油の語源はこの歌の「錦」から頂いたようである。
水は住所が斑鳩町五百井(いおい)とあるように、昔弘法大師が500番目に掘ったと言われている良質の水質、水脈で、今も絶えることなく醸造水として用いられている。この良質な水があってこそ、雑味もなく、かつ国産原料からくる五原味も引き立つのであろう。
しかしながら、国産の原料(大豆、米、小麦、塩)を使用した醤油作りは非常に手間と時間がかかり、コストもかかるようである。 それでも4代目の蔵元は、有用な酵母菌を選出し、育て、管理し、酵母の命を最大限生かした斑鳩の地の醤油を極めようと、日々酵母と対話しているのである。

帰り際、そういえば戦後間もない食糧難の時代、麦ごはんや、うどんに醤油を掛けて食べていたことを思いだした。私にとってこの時から、味の原点は醤油であったような気がする。

ニシキ醤油(株)
奈良県生駒郡斑鳩町五百井1の3の10
0745-75-2626

山根 清孝



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