奈良がルーツ 「味の良い昔の固い豆腐」


地球温暖化のせいなのか、天候の異変が続き、今年は予想の「冷夏」どころか炎暑の夏となった。
暑い夏はつるりと冷たい冷やっこや、夏バテ防止のチャンプルーが、栄養もよく食欲をそそる。
豆腐といえば京都を思い浮かべる人も多いと思うが、実は中国から日本に伝わった豆腐が最初に文字に現れたのは、春日大社の供物の記載(1183年)だという(篠田統先生)。室町時代の京の市場の模様を伝える「七十一番職人歌合せ」にも「とうふ召せ、奈良よりのぼりて候」と奈良の豆腐売りが登場する。「源平の争い騒然の京の都を避け、昔日の文化を持つ奈良に上陸したのもうなずける」と近藤弘先生。

中国の豆腐は水の中でなく「各種いずれも板の上に座っている」といい、奈良に伝わった豆腐もそのようなものだっただろう。「昔は藁で縛って帰った」という話はよく聞く。ちょっと、冷やっこには向かない気もするが、そんな豆腐を探したところ、地元奈良の豆腐屋さんにもあったので、早速訪問してみた。

平群にある豆腐工房「我流」さんで、店主の河本(こうもと)学さん(48歳)にお話を伺った。河本さんはお父さんが堺市で豆腐作りをされていたが、堺の水があまり良くないので、昭和50年に、この平群に引っ越されこの地で豆腐作りを続けられた。学さんが19歳の時、あとを継げるよう、父から豆腐作りの基礎をみっちりと教えてもらい、さらに独学で研究をすすめてきたという。当地での歴史は古くないものの、橿原の今井町と堺の環濠商業町の関係や、奈良が明治の5年間「堺県」であったことなどから、奈良の豆腐が堺に出て、時を経て奈良に戻ったのかも、など楽しい想像も働く。

「小さい豆腐屋としては、こだわりが必要と考え、昔の固い豆腐や、奈良漬け、燻製、ジャーキーなど様々な豆腐製品を手掛け、店名も「我流」とつけた。今でも製造に打ち込む父の釜が空いてから、自分の考える商品を作るので、特別な品は夕方に出来上がることもある。特に固い豆腐は、舌触りがどうしても荒くなりがちで、少しでもなめらかにと、豆乳の濃度や温度、ニガリの量や合わせ方、タイミング、製造時の「くずし方」、水の切り方など、細かな注意が欠かせない」という。熱意がしっかりと伝わってくる。

固い豆腐は「げんこつ豆腐」といい(さらに固い「鉄拳豆腐」もある)、5mm厚に切って箸で持ち上げ、多少振っても崩れない。豆乳の濃さが普通の倍ほどあり、栄養価は高いが、味は意外にさっぱりして誠においしい。味がよく絡むので、夏のゴーヤチャンプルーや鍋などの煮物には最高だろう。

当会では9/19(土)に「うどんルーツ・サミット&奈良食文化祭」を奈良100年会館と(前庭)時の広場で開催するが、そこで奈良のルーツ食として、この豆腐の料理も有料で試食していただく。ぜひ、お越しいただき様々なルーツの味を味わっていただきたい。

豆腐工房「我流」
平群町吉新1-3-10
0745-45-3671
店舗は、平群町「道の駅」、JR奈良駅「奈良のうまいものプラザ」にも出店。(特殊商品は販売情報確認要)

瀧川 潔



▲ページトップへ