「夏鹿」・・・夏においしい鹿
梅雨明けが待ち遠しい、陽光がきらめく候となった。涼を求めてだく渓流の流れる奈良の奥地、吉野へ足が向く方々も多いことと思う。
森林王国の日本の中でも、奈良の森林面積の多い県だが、森林は水面の涵(かん)養はもちろん、人間の暮らしにとって大変多様、かつ重要な働きをしている。歴史の重みを含めて、吉野は奈良県民にとって、大切に守り育てるべき心の故郷と言っても過言ではない。
その吉野の森を、全国的にも過剰繁殖している鹿が食害し、駆除が進まず、手を焼いている。 さて、鹿肉は、きちんと処理すれば、どんな味にもなじむ癖のない食肉で、脂が少ないうえにDHA、EPAといった善玉脂肪酸を持ち、鉄分が多く、女性にも最適の、誠にヘルシーな食肉である。 西欧では高級ジビエとして有名だが、日本でも古来、狩の重要な対象で、別名「もみじ」として食されてきた。女性は特にイメージ先行で「鹿肉」というとしり込みする向きも多いが、当会の試食で口にした人は、ほとんど「くせがなくおいしい」と驚いてくれる。 こんな鹿肉を何とかわずかでも流通に乗せたいのだが、いかんせん狩猟肉であり、狩猟と駆除の際の確保のため、冷凍保管であるが、常時在庫が困難なのである。 ところで、鹿肉は「夏がおいしい」ということをご存知だろうか。日本鹿は体が比較的小さいので、食肉になる部分は少ないが、体の大きな雄は肉も多く取れる。一般に「馬肥(こ)ゆる」ともいわれ、肉は越冬のための脂肪の蓄えから秋冬がおいしいといわれるが、雄鹿は秋になると繁殖期に備えて体力を蓄える夏の雄が、猟師仲間では「夏鹿」といっておいしいのだという。 吉野は3年前、紀伊半島風水害で多大な災害をこうむった。この復興と「心の故郷」吉野の活性化を支えるためにも、ぜひこの夏は吉野に出掛けていただき、かけがえのない吉野の森を鹿の食害から守るため、吉野鹿「夏鹿」をご賞味いただきたい。 涼やかな清流とアマゴやアユや、山菜などの地元の食材を中心とした吉野の山の料理を、冷たい「日本酒で乾杯」の中に清酒発祥の奈良の歴史をも感じつつ、じっくりと味わっていただきだい。
【提供店】 瀧川 潔 |