「夏鹿」・・・夏においしい鹿


梅雨明けが待ち遠しい、陽光がきらめく候となった。涼を求めてだく渓流の流れる奈良の奥地、吉野へ足が向く方々も多いことと思う。 森林王国の日本の中でも、奈良の森林面積の多い県だが、森林は水面の涵(かん)養はもちろん、人間の暮らしにとって大変多様、かつ重要な働きをしている。歴史の重みを含めて、吉野は奈良県民にとって、大切に守り育てるべき心の故郷と言っても過言ではない。 その吉野の森を、全国的にも過剰繁殖している鹿が食害し、駆除が進まず、手を焼いている。

当会は5年前から、県や国のわずかな助成を受けながら「吉野の森を食害するジビエ鹿肉料理普及事業」に取り組んできた。 昨年10月末、県の「獣肉利活用事業」の一環として、当会が連携する上北山村の原口清隆氏を中心とする県内初の獣肉処理施設「上北山特産加工センター」がようやく完成した。 まだまだ課題は多いが、奈良のジビエ鹿肉料理普及への一歩前進である。今年の当会総会後には、県南部東部振興課・上田参事にご講演もいただいた。

さて、鹿肉は、きちんと処理すれば、どんな味にもなじむ癖のない食肉で、脂が少ないうえにDHA、EPAといった善玉脂肪酸を持ち、鉄分が多く、女性にも最適の、誠にヘルシーな食肉である。 西欧では高級ジビエとして有名だが、日本でも古来、狩の重要な対象で、別名「もみじ」として食されてきた。女性は特にイメージ先行で「鹿肉」というとしり込みする向きも多いが、当会の試食で口にした人は、ほとんど「くせがなくおいしい」と驚いてくれる。 こんな鹿肉を何とかわずかでも流通に乗せたいのだが、いかんせん狩猟肉であり、狩猟と駆除の際の確保のため、冷凍保管であるが、常時在庫が困難なのである。

ところで、鹿肉は「夏がおいしい」ということをご存知だろうか。日本鹿は体が比較的小さいので、食肉になる部分は少ないが、体の大きな雄は肉も多く取れる。一般に「馬肥(こ)ゆる」ともいわれ、肉は越冬のための脂肪の蓄えから秋冬がおいしいといわれるが、雄鹿は秋になると繁殖期に備えて体力を蓄える夏の雄が、猟師仲間では「夏鹿」といっておいしいのだという。 吉野は3年前、紀伊半島風水害で多大な災害をこうむった。この復興と「心の故郷」吉野の活性化を支えるためにも、ぜひこの夏は吉野に出掛けていただき、かけがえのない吉野の森を鹿の食害から守るため、吉野鹿「夏鹿」をご賞味いただきたい。 涼やかな清流とアマゴやアユや、山菜などの地元の食材を中心とした吉野の山の料理を、冷たい「日本酒で乾杯」の中に清酒発祥の奈良の歴史をも感じつつ、じっくりと味わっていただきだい。

【提供店】

憩いの里ホテルかみきた
電話07468-3-0001

民宿たっさん
07468-2-0171

(いずれも、鹿肉のご希望の際は要予約)


瀧川 潔



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