あるがままの気候風土で育つ大和茶
心に潤いと安らぎを与えてくれる一服のお茶。お茶は健康飲料として生活に溶け込み、その効用は世界にも注目されている。
また、お茶は世界に誇れる「茶の湯」の文化としても発展した。心を清める「わび茶」を考案した奈良出身の村田珠光。さらに哲学的な思考性、美の世界うぃ見極める審美性を加えて、わび茶道として大成させた利休。お茶の魅力は、香りや味だけにとどまらず、日本文化の集大成として、今日受け継がれている。
さて「大和茶」の始まりは、806(大同1)年に弘法大師が唐から茶の種子を持ち帰り、弟子が宇陀市の佛隆寺に種を播(ま)き育て、その製法を伝えられたとされる。
以来、「ひむがしの 野にかぎろひの 立つみえて」の歌で知られる大和高原で栽培されたお茶が「大和茶」と呼ばれる。朝晩の温度差が激しい高冷地でゆっくりと育ち、香りの高い良質な茶が出来る。奈良県の茶栽培は、かぶせ茶やてん茶、番茶が生産され、全国6〜7番目の産地となっている。
その大和茶の伝統栽培を受け継ぎ、大和高原・都祁(つげ)の里で自然農法「大和茶」を生産している健一自然農園を紹介しよう。
農家出身ではない伊川さんは高校生の時、勉強した自然農法をきっかけに、「何万年も前から人間がしてきた命の営みを原点に、自然農法の農業で生きてみよう」と、13年前のこの地に移り住み、お茶の栽培を始め「健一自然農園」を立ち上げた。
大和の北海道とも呼ばれる都祁の里で、農薬も肥料も使わない」自然栽培にこだわり、虫が発生しても取らず、伸びた草は刈り取って木の根元に敷く以外、余計な手は一切加えない。耕さず、肥料や農薬を必要とせず、草々や虫たちを敵としない「いのちの営み」にひたすら寄り添う自然農の実践。あるがままの気候・土風を生かした、都祁伝統のお茶づくりである。
自然のバランスが保たれた山々では、木々は葉を茂らせ、落ち葉を土に還(かえ)し。驚くほどに土がフカフカ肥えてくる。
茶畑には、無数のクモが、せっせと獲物を捕まえる。初夏にはカマキリが大活躍。茶の葉を食べる虫もいるが、自然にバランスをとることで大量に発生することはない。多様な草や生き物の、生き生きとした共存の茶畑を保つことが大切。
あるがままの気候土風をいかし、「いのちの営み」と共存し、都祁の里で、受け継いだお茶の栽培法で出来たお茶。鎌倉時代に伝わった往時そのままの自然栽培法のお茶の味は、すごく甘いというわけではないが、「すっきりとした素朴感のある味」悠久の時代を感じる、自然そのものの味わいがある。
木村 隆志/p>
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