大峰山系の“ごんぱち”山菜料理


“ごんぱち”は“いたどり”(すかんぽ)のことで、熊野山岳地域(和歌山、奈良、三重)に限った呼び名である。春の山菜として欠かせない。 この地域以外に、四国、北海道、秋田、山形、、新潟、京都などの山郷でも食べられているが“ごんぱち”とはいわない。
高知では、“いたどり”の塩漬けが日曜朝市で売られている。近畿では「道の駅」でもほとんど見られず、もっぱら採取地元で消費されているようだ。
“春真菜”の産地、吉野郡下北山村(きなりの郷)では昔から“ごんぱち”を好んで食べていたと『下北山村史』(昭和48年編纂)に書かれている。

“いたどり”はタデ科の多年生草木で、日本各地に自生し、朝鮮、中国、台湾にも分布している。生命力が強いため、欧米では、在来種の植生を脅かす侵略的外来種として嫌われている。

川辺の土手に自生する“ごんぱち

童謡「すかんぽの咲くころ」(北原白秋詩、山田耕作曲)にも歌われ、日本人には親しみのある植物である。川の土手、道ばた、山に群生し、4月半ばから5月の初めにかけて新芽が出て採り頃である。
茎に節がありタケノコのように中空で、若い茎は柔らかく、手で折ると“ポン”と音がして簡単に千切れる。柔らかい茎を食用にする。シュウ酸を含み特有の酸味があるので“あく抜き”をして料理に使う。皮をむいて生食にもできる。 この5月4日、若葉が薫る下北山に出かけ、山菜料理に詳しい野尻タマコさんを訪ね、“ごんぱち”の話を伺った。

野尻さんによると、茎に横枝が出ていない若い“ごんぱち”がおいしく、収穫後1~2日放置しても大丈夫とのこと。

採取して食べごろの若い“ごんぱち”

次に、あく抜きについて、まず、適当な長さに切って、鍋で熱い湯(60℃程度)にくぐらせて皮をむく。それらをまとめて熱い湯(60℃程度)に入れ、色が灰色がかった淡黄緑色に変わったところで、水に移して流水で晒す(水を入れ替える方法でもよい)。
酸味がなくなれば完了で、一晩もすれば十分、思いの外簡単である。あく抜きをした“ごんぱち”は冷蔵庫(4℃)で1週間、冷凍して長期間保存ができる。大量に長期間保存する場合は、樽で塩漬けにする。

調理の仕方は、蕨、ぜんまいなどと同じで、単独で使う、また、他の山菜やタケノコ、生節とも炊き合わせるなど、バリエーションは多彩。味噌汁や炊き込ご飯にも使うそうだ。ご自慢の“ごんぱちの煮もの”は、本だし(風味調味料)で煮て、みりん、砂糖、酒、醤油味付けし、刻んだ油揚げを入れてもおいしいとのこと。 下北山村の北隣、上北山村の山菜取りの名人、森本たみ代さんにも“ごんぱち”の話を伺った。あく抜きや調理の方法は下北山と同じだが、だしを使わずに、豚肉、椎茸なども使って胡麻油で炒めて山菜味噌で食べる料理も紹介していただいた。上北山では、“ごんぱち”といわず“いたどり”というとのこと、地域文化のおもしろさを感じた。 近くの土手の“ごんぱち”を摘んで、家族と“ごんぱち”料理を楽しんでみませんか。故郷の春の料理で、ほのかにだしの香りがして、くせもなく素朴で心が和む味がする。

“ごんぱちの煮物”(野尻さん作)

的場 輝佳



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