日本酒の元祖にせまる「きもとのどぶ」


お正月には酒がつきもの。日本酒の元祖は「しろき」つまりどぶろくである。奈良県のほぼ中心、江戸期に松山城下町として栄えた大宇陀の(株)久保本家酒造では伝統的な日本酒の造り方である生?(きもと)造りの酒を造っている。創業は1702年、三百年の歴史ある蔵元で、尾瀬あきら氏の漫画やTVドラマの「夏子の酒」、米国最大の新聞ウォール・ストリート・ジャーナルなどでも紹介された。11代目の久保淳平社長からお話をうかがった。

まず出てきた言葉は「年の計は田んぼにあり。百年の計は山にあり。それ以上は人にあり」、三百年受け継がれた家訓だ。 田で1年かけて酒米を造り、山で百年かけて樽の木を造り、すべてをにぎるのは「人」であるということ、そして「自分は贅沢をせず、人様を優先せよ。」この二つを教えられたという。 平成7年に酒屋を継いだときは「桶売り」、大手酒造メーカーの下請け(昭和四十年代末、日本酒消費が最高のころは大手の生産力が上足し地方の小酒蔵から酒を買った)だ。だがその後需要も減り、大手の生産力も上がって、下請けはいずれ切られるという危機感から、自社ブランド計画「温故知新計画」を進めた。 奈良は清酒発祥の地であり中世日本で「奈良酒」は日本の頂点に位置していたが、その頃からの伝統的酒造方である「生?造り」に取り組むことになった。できる酒は、今主流のフルーティな香りと甘い味わいの酒とは一線を画し、香りは穏やか、味わいはコクがありながらスパッと切れる。料理を引き立て、自然に杯が進み、体に馴染み、酔い心地が良く、翌日の目覚めが良い酒質である。

「生?造り」は、昔ながらの手作業で天然の乳酸菌を取り込みながら、雑菌を駆除し純粋酵母を育てていく手法だ。 「?すり」と呼ばれる作業は重労働で、手作業で丹念に重ねて酵母を育て、酒造りのもととなる「?(酒母)」を完成させる。 自然の厳しい環境で一ヶ月かけて育てると(現在主流の速醸?なら7〜10日でできる)頑強な酒母ができるため、生命力が強く、完全にアルコール発酵する為、すっきりとしたキレのある辛口を特徴とする酒が生まれる。 明治後期まで用いられていたそうだ。

試飲させて頂いたのは 睡龍(すいりゅう・生?純米)、初霞(はつがすみ・特別純米)、生?のどぶ(純米にごり 加水瓶燗火入)だが、特にお薦めは「生?のどぶ」の燗(かん)酒だという。 「元祖日本酒」は、酒粕(さけかす)と同じ成分の醪(もろみ)が入っているのでお通じにも良く「飲むエステ」とも言われた。 古代を偲ぶ味は、当研究会の「吉野鹿さいぼし」など野生の肉にも特に合い、旨味とキレが絶妙な味わいで楽しめる。 漫画家の尾瀬あきら氏も絶賛という。 (株)久保本家酒造 宇陀市大宇陀出新 0745-83-0036

増井 義久



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