奈良の伝統素材・吉野葛に見る和菓子の風情


〜素材の味を邪魔しない和菓子作り〜
うららかな日和、猿沢池から程近い奈良町界隈・上街道の角に萬御菓子誂處「樫舎(かしや)」があった。

店内はこじんまりとしつつも、大きな青竹が2階まで階段沿いに貫いていた。春をつげるお水取りに使ったお松明であろか。

ご主人は大和郡山のさる有名な和菓子の老舗で長年修業を重ねる一方、実家は徳島の有名な和菓子・小男鹿本舗・冨士屋である。また先代は和三盆の先駆者でもあったようで、このような経緯からご主人は「伝統」と言う思いに拘りがあった。開口一番「素材のみで90〜95%が決まる」と。

素材は数十年に渡って先代達が関わってきたものであり、素材そのものが伝統である。その素材のポテンシャルを邪魔しないで作ることを信念としている。即ち、素材の味を和菓子にどう引き出すかと熱く語っていた。そんな思いから、素材集めは買うでなく、分けていただく気持ちでいるとのことだ。

ころで本日、私が頂いたのは奈良の伝統の素材、吉野本葛を使用した「みよしの(葛焼き)」である。これは丹波大納言の自家製こし餡と極上吉野本葛とを合わせて蒸し上げ、さらに本葛の粉をまぶして表面をゆっくりと焼きあげた昔ながらの葛焼きである。

ゆっくりと焼くことにより、澱粉がアルファー化して、こし餡と葛の何とも言えないハーモニーを生み出しているのである。それは口の中で心地良く砕け喉の奥へ吸い込まれていった。それは正に、ご主人の言う「葛焼き」の邪魔になるものを一切入れず、丹波大納言と吉野本葛、砂糖だけで作られたものなのである。これ以上何かを加えると素材の良さを邪魔するらしい。

また干菓子・小種(こだね)は近江のもち米と阿波の和三盆の蜜だけを素材にしたなつかしい、香ばしい煎餅もあった。 非常に軽い歯触りがサクッとしたかと思うと、蜜の味が口の中で広がり、すーっと消えて行った。 これ以外にも季節に応じて色んな上生菓子があった。そしてお店を出る時、気がつくと、漆塗りの椿皿に乗せられた「葛焼き」が障子越しの斜光を浴び、美しいシルエットになっていた。日本の和菓子の風情とはこんなにも簡素でありながら、心を和ませるものなのだ。そして、この空間、この風情を感じることも和菓子の賞味なのだと思った。


樫舎(かしや)  0742-22-8899

山根 清孝



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