万葉飛鳥葉盛御膳


藤原京より出土の木簡から再現した宮廷料理
今年は特に遠く感じた春も、ようやく「うらうらと照れる」候となった。
今年は古事記編纂1300年で、「記紀、万葉」に光をあてる取り組みが県内で進んでいる。
古代の味への期待と、平城京をしのぐ古都、飛鳥の春風に誘われ、国営飛鳥歴史公園内にある「祝戸荘」の古代食「万葉飛鳥葉盛御膳」をいただきに出かけた。

支配人の溝脇春男氏にお話を伺うと、万葉集の有馬皇子(ありまのみこ)の歌に

家にあれば 筍(げ)に盛る飯を草枕 旅にしあらば椎の葉に盛る

とあり、旅の食器となった椎の葉を大きな「朴の葉」にし、飛鳥の「藤原京」(694年遷都)から出土した木簡(納税の為の荷札)にある食材を選び、著名な料理研究家が歴史文化研究者の先生方の意見も取り入れて作成されたのがこの料理である。

献立は記述するだけでも大変なもので、それぞれ古代の特徴があり、木簡との関係を説明するにはとても紙面が不足だ。
あえて記すと、先ずは酒、日本酒は神社から広がり、当時は「しろき」という濁り酒。
ねっとりとして甘いがアルコール分は少し高い。

飯(いい)は、赤米と黒米(双方白米との混合)、木簡によく登場し「古代米」ともいわれる。赤米はタンニン系、黒米はアントシアン系(ポリフェノール)色素を含み、いずれも野性的で強く、健康に良い。赤米はさっぱりと素朴、黒米はもっちりとした甘みがある。

炙(あぶりもの)は、鴨肉とあまごの塩焼き、茄子の煮びたし。前者2点は海のない飛鳥で古代の貴重な動物蛋白食品。
灌漑や造営で池の多い飛鳥には多くの水鳥が飛来し古歌にも歌われている。
あまごは渓流の女王といわれる。あえものは、帆立貝柱の雲丹あえ。
後述の、とこ鮑、くらげとともに、木簡を荷札とし、遠く海から献じられる貴重な貴族たちの贅沢品。羹(あつもの)は、赤米麺、山菜、生姜、稚鮎甘露煮。米の麺は日本にはなく、おいしかったがこれは創作だろう。

膾(なます)は、当時「生肉を細く切ったもの」だが、この料理では後に「精進膾」といわれる、もずく、甘海老、レモン、ずいき。

煮(にもの)は、とこ鮑、八幡巻、銀杏、椎茸甘煮。茹(ゆでもの)は高菜の胡麻炒め、枝豆、里芋、くらげの梅和え。菓子に蘇(そ)、栗甘露煮、山桃、白無花果(いちじく)、オレンジ。蘇は飛鳥宮に初めて中国から渡来の牛乳を煮詰めた、ほのかに甘く深みのある「古代のチーズ」だが醗酵はしていない。やはり古代の食はいずれも健康食である。

飛鳥の歴史と味を楽しみつつみんな平らげてしまったが、すっかり満腹の「貴族」気分。期待にたがわぬ「御膳」であった。読者の皆様もぜひお出かけいただいてはいかがか。

祝戸荘 0744-54-3551 (古代食3500円は要予約)

瀧川 潔



▲ページトップへ