吉野鹿アジアンカレー


吉野にこんな話がある。昔、松明(たいまつ)を灯(とも)して近寄り射止めて鹿をとる猟師がいた。ある晩、一頭の鹿と目が合い弓に 矢をつがえたが、鹿の目にしては間隔が近すぎ目の色も妙だったのでさらに近寄ると、鹿の皮を被った聖が横たわっていた。聖は吉野「龍門の聖」で神鹿を守っていたのだ。これは、当時、鹿狩りの禁制にもかかわらず、庶民が命がけで食すほどの珍味だったことを示す話でもある。

仏教の浸透もあって鹿肉を食す風潮は下火となったが、昨今は県南部を中心に鹿が異常に繁殖し、若芽や若葉、木肌を食べたり角で剥いだりして、大切な森林を荒らしている。県も3千頭の駆除枠を設けているが、全く駆除は進んでおらず全国的にも同様な状況である。鹿肉が食べられず、流通しないことも一大要因である。
鹿肉は隠語で紅葉(もみじ)といい、猟が紅葉期にあるからとも、赤い肉色からともいわれている。鹿猟に関して旧石器時代やあの巻向の遺跡からも肉の削ぎ痕のある鹿骨が発掘されており、歴史は非常に古い。
肉はもちろん、皮や角なども利用され、特に若い袋角は鹿茸(ろくじょう)と呼ばれる高価な漢方薬である。

肉は他の食品に比べ低脂肪でありながら必須アミノ酸、ビタミン類、ミネラル分が豊富に含まれ、特にビタミンB群は新陳代謝を活発にし、疲労回復を促進するほか、肌や粘膜の健康維持にも役立つ。
また貧血や冷え性を予防する鉄分が多く牛肉の5倍、豚肉の10倍もある。細胞の健康を保ち味覚を鋭敏にする亜鉛も多く、カルノシンの抗酸化力も期待されている。 当会は、異常繁殖を抑制し、吉野の森を守るために、鹿肉料理の普及運動を進めており、昨年「吉野鹿アジアンカレー」を他の2品目とともに作成した。

カレーは西暦752年当時、インドからシルクロードの終点、奈良の正倉院まで運ばれて来ていた。この歴史に裏付けされたカレーに近づけるため、「ハラールーカレー粉」を使うアジアンカレースタイルとし、一般的な小麦粉等のとろみづけを無くした。

当時のカレーは薬膳料理であり、「吉野鹿カレー」の各スパイスも、ターメリックは血行促進・消炎作用でアトピー性皮膚炎への効果、コリアンダーは胃液の分泌促進、チリは殺菌作用・健胃作用。脂肪分解、クミンは下痢や消化不良の改善、ペッパーは消化を促進し食欲増進・利尿作用、クローブは鎮痛作用と抗菌力、動脈硬化予防、カルダモンは胃腸活性化で便秘・口臭の予防、スターアニスは保温効果で腰痛や関節炎の抑制、等がいわれている。
1300年の歴史の中で、貴重な鹿肉とハラーカレー粉の巡り合わせを生んだシルクロードヤマトの「吉野鹿アジアンカレー」が、日本文化の再生と新たな創生を担う一端となることを大いに期待したい。

吉野鹿アジアンカレー(250c、レトルトパック)500円

久保 義弘



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