吉野のアマゴとけんずい


今年も特に暑い夏となった。吉野の渓流は想像するだけでも涼やかだが、そこにおどる鮎とアマゴは奈良県の特産品にもなっている。
鮎はスーパーや魚屋で毎日のように姿を見せて人々に食されているが、”清流の要請”と言われているアマゴは残念ながらあまりお目にかかることはない。アマゴは喧嘩南部各地で人口ふ化し放流されているが、特に県下で一番早く人口ふ化し放流したのは黒滝村である。
ここでアマゴの塩焼きを提供している黒滝・森物語村の森の交流館を訪ね、支配人の江本伸二氏と営業担当上西永祐氏にお会いしお話をお聞きした。

森の交流館ではアマゴの塩焼き、けんずい=茶粥、古漬けをセットにして提供している。アマゴの塩焼きとアマゴの料理は交流館スタート時からあったようだが、今はアマゴの塩焼きに絞られているようだ。
アマゴは小判状の斑点と朱点をちりばめた美しい魚であるが、塩焼きにすると骨はやわらかく、頭からかぶり付き、はらわたまで食べられる。味は淡泊であっさりとしていて野性味があり、素朴な深味が何とも言えない。
また、「けんずい」と「古漬け」と「あまごの塩焼き」のコラボは誠によく合って美味である。

けんずいとは、いわゆる今どきのティータイムの食事であるが、古くは朝食と夕食との中間食をいった。黒滝村では朝6時頃にお粥さんを食べ、10時頃家にいる人は「朝けんずい」として粥を食べ、山仕事の人はめんば(弁当箱)の半分を「朝けんずい」としてご飯を食したとのことである。

黒滝村でのアマゴの人口ふ化と放流の取り組みは、昭和40年黒滝村漁協の当時専務理事であった畠山氏と中田村長らが人口ふ化の計画をたて事業を開始したことに始まる。
ところがビワマスやニジマスと比べると水温に敏感な魚のために失敗に失敗を繰り返し、やっと養殖に成功したのは昭和44年のことであったという(黒滝村村史より)。
アマゴについてもう少し聞きたく思い、奈良県漁業協同組合連合会の梅村専務理事をお訪ねした。県下でアマゴを人口ふ化し放流しているのは、黒滝村をはじめ野迫川村、天川村、川上村、下北山村、上北山村などである。

連合会ではいろいろな機会をとらえ、あまごの塩焼きをPRしているようだが、「焼きたてのアマゴはみなさん、おいしい、おいしい、と食されているようですが、鮎のような食の広がりがないのは残念です」と話された。今後も機会をとらえておいしさをPRするとのことである。

また、川魚の料理に興味のある方は、連合会で出している「美しい川魚で旬を味あうひとくふう」(鮎とあまご料理のレシピ)の冊子参考にしていただきたい。

この夏、吉野の渓流に、あまごの塩焼きを食べに出かけられてはいかがだろうか。懐かしい味に出会えること請け合いである。

水谷 直利



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