春を味わう奈良のお菓子を求めて、さなぶり餅を訪ねてみた。
今回の訪問先は橿原市縄手町の「総本家さなぶりや」の杉本健さん。当店は、おふさ観音門前で24年前からさなぶり餅を販売されている。
当地、縄手町は藤原京や今井町にも近く、また、おふさ観音は身体の健康を授かるといわれる十一面観音がご本尊で、開運厄除け、子授け、ボケ封じなどでも近年参拝客で賑わっている。
正式名は高野山真言宗別格本山観音寺で、江戸時代に土地の娘「おふさ」さんが、この地で観音様を奉りはじめたのが後におふさ観音寺に発展したそうである。


おふさ観音

総本家さなぶりや

杉本さんの「さなぶり餅」は、総本家さなぶりやの商標で、大和では昔から作られている「半夏生餅(はげっしょうもち)」「小麦餅」のことである。元来、「さなぶり餅」は、御神酒と一緒にお供えする餅のことで、小麦餅や白餅など地域によってさまざま。また、さなぶりは田植が終わると農作業を無事終えたことを田の神さまに感謝するために行われた。
人々は神さまと一緒にお供物を食し、しばし農閑期の休息をとった。「さなぶり」の「さ」は「田の神さま」。地上に降りてきた神さまが、田植えを見届けて天に帰ることが「さ昇り」と言い、それが訛って「さなぶり」となったのではと文献にある。

また、半夏生餅と呼ばれる由来は7月2日の半夏生の日に、この小麦餅を「さなぶり」行事と同じように稲の豊作を祈って食べたことからである。半夏生(はんげしょう)とは雑節の一つで、半夏(烏柄杓)という薬草が生える頃が7月2日にあたる。農家にとっては大事な節目の日で、この日までに農作業を終え、この日から5日間は休みとする地方もある。県民俗博物館によると半夏生餅は、室町時代ごろから作られていたと推察され、この餅の風習は大和国中(くんなか)、南河内、北和歌山地方で今も残っている。


総本家さなぶりや店主 杉本 健さん

杉本健さんの半夏生餅づくりは、大和に古くから伝わる全粒小麦を主材料にした黄粉餅(きなこもち)の再現だ。昭和59年2月に奈良大和の名物にと、昔ながらの半夏生餅の販売を始められた。ただ無添加の餅は直ぐに固くなるので商品化には思うように至らず、試行錯誤を重ねて、やっと現在のぷつぷつとした舌ざわりの柔らかい餅の商品になったという。

平城遷都1300年記念事業に合わせた取り組みの「奈良のうまいもの」郷土菓子の一つに「はげっしょう餅」が選ばれたことを契機に、これからも、大和の郷土菓子にさらに磨きをかけ、伝え残して行きたいと杉本健さんは熱く語る。 小麦餅は香ばしく胃にも優しいので健康にもよさそう。健康祈願におふさ観音の参拝と春の訪れの発見に郷愁を呼ぶ大和のお菓子を食べ歩いてみてはいかがだろうか。 商品のお求めは総本家さなぶりや、又は近鉄百貨店橿原店で


さなぶり餅(6個入り)600円
ふひと団子(5本入り)300円

お問い合わせは
総本家さなぶりや
〒634-0073橿原市縄手町243
電話0744-22-2243 FAX0744-22-2390







奈良の食文化研究会:木村 隆志