中秋の候、秋の風香を求めて當麻寺へ、宗胤院(そいにん)さんの茶粥点心を思いだし、久しぶりに當麻寺を訪ねた。今年のお彼岸は30度を越す記録的な猛暑となった。「お久しぶりです。」と挨拶すると宮下寛昇住職が元気な笑顔で迎えてくれた。

雄岳、雌岳からなる二上山(にじょうさん)は、ふたかみ山とも呼ばれ、そこに落ちる夕日の美しさに、人々は悲運の大津皇子を思う。持統天皇の陰謀により、皇位継承の争いの中で死を遂げた大津皇子の墓はここにある。二上山のふもとにある當麻寺は聖徳太子の弟、麻呂王子(まろのおおじ)が河内国にあった寺をここに移したことが始まりとされている。豪族當麻氏の氏寺として、七世紀の後半に創建された。天武天皇十年(671)から数年かけて東塔、西塔、金堂が建立された。ぼたんの美しい寺としても知られている。宗胤院は當麻寺塔頭で享禄、天文時代を中心に當麻寺の営繕にたずさわった勧進聖の筆頭、宗胤上人を始祖とする寺である。



25年前、大和にふさわしいおもてなし料理ができないかと茶粥点心を始められた。日本料食の岡村政秀氏の熱心なすすめで、それまでは抹茶だけであったが、茶粥をメニューに加えられたという。現在の献立に至るには住職のお母さまと奥さまが大変ご苦労されて作られた結果であるという。「贅沢なものは何一つありません。ほんのひと時、季節感と心の充足感を味わっていただければいいのですよ。」と住職はおだやかな顔ですすめられる。本堂の仏さまの前でいただく、茶粥の料理は心が洗われるようで美味しい。

「茶粥点心」の献立は茶粥と、あんかけうなぎ、大根むくげ、長芋、桜明太子、人参、玉子焼き、蓮根いくら、おたふく豆、昆布巻き、こんにゃく田楽3種(しょうが、黒ゆず、さんしょ)香物(花きゅうり、つぼ漬、柴漬け)である。素材は時期によって多少変わるが季節感たっぷりだ。これに抹茶と和菓子がついている。箸袋も住職がひとり一人違う季節の言葉を丁寧に書いて出される。香物の竹の器も住職の手作りである。並々ならぬ気持ちの入れようが見て取れるのである。宗胤院の茶粥は、ほうじ茶で香りが非常に高い。それもそのはず、お米をほうじ茶で炊き上げ一旦煮汁を全部捨てて、別に炊いたほうじ茶と合わせるのである。こうすることで香り高く、どろどろした糊状ではなく「さらっと」した茶粥が出来上がる。まだまだ完成されたものではありませんと語る住職だが、試行錯誤を経て現在の味に至るには25年の歳月と、訪れる口の肥えた様々な著名人の方々の声と、それに応えて料理を一手に受けてこられた調理スタッフの力だろう。



また書でも有名な住職の作品は国際的にも評価が高く、その作風は、力強く、均整と構成力の見事なものである。寺内にはあちこちと作品が飾られていて、これを拝見するだけでも楽しい。宗胤院の奥の庭園には千種近い山野草が育てられている。いずれも茶花になるものでその季節に催されるお茶会に色を添えてくれるという。
ほんのひと時、ゆっくりと伝統の大和の茶粥を頂きながらこれまでの自分、日常の自分をちょっと見つめてみるのも一興である。

當麻寺宗胤院(たいまでらそいにん)
茶粥点心(抹茶・お菓子つき)2700円 予約必要。
営業日(毎週金、土、日)午前11時30分〜午後2時まで
奈良県葛城市當麻1263 TEL0745-48-2649


奈良の食文化研究会:木村 隆志



茶粥
ほうじ茶で「ほっと」とする味に。風邪などで食欲の無い時にも最適。

<材料>(4人分)
・米2合
・水米の1.5〜2倍
・ほうじ茶7g
・塩2つまみ

<作り方>
@ほうじ茶を茶パックの中に入れる。
A米をよく洗いざるにあげておく。あとは、全ての材料を土鍋の中に入れ炊くとできあがり。

(ポイント)
塩味を控え気味のほうがお茶の味がほんのり香ります。お茶はウロン茶でもおいしいです。