大宇陀は飛鳥時代「阿騎野」と呼ばれていて宮廷の狩場であったという。 その昔、柿本人麻呂が詠った「東(ひむがし)の 野に炎(かぎろひ)の 立つ見えて かへり見すれば 月傾(かたぶ)きぬ」は軽皇子(かるのみこ)の狩猟のお伴に、早朝この地を訪れた際に詠ったものである。
(東方の 野にかげろうの 立つのが見えて 振り返って見ると 月は西に傾いている)という意味だそうである。大宇陀のかぎろひの丘には柿本人麻呂の句碑が東に向かって建てられている。
「かぎろひ」とは厳冬の良く晴れた夜明け、日の出前に出現する神々しいの陽光のことで、宇陀市では毎年旧暦11月17日にかぎろひを観る会が催され多くのファンが訪れている。 大宇陀は昔から現在でも薬草が豊富に採れる土地柄。大願寺は大宇陀の真ん中の辺り、道の駅「宇陀路 大宇陀」の直ぐ山手、宇陀市大宇陀区拾生に大願寺はある。。


大願寺境内

1615年、大坂夏の陣後、大宇陀を治めた織田信雄(のぶかつ)(信長の次男)以後、大願寺は織田家の信仰が篤く祈願所であったという。宿坊で檀家を持たないそんな由緒ある寺で秦信昭(はたのぶあき)住職と奥様の秀子さんは35年前、寺の維持のために薬草料理を始めた。
その後、薬草料理が評判を呼び、23年前から宿坊をやめて料理だけの提供にして続けている。料理は当時から改善を重ねられているが、薬草と自然の滋味、大宇陀の特徴は変えることなく、何回来ていただいても変わらない味、故郷の味を守っていきたいと奥さんの秀子さんは語る。


大願寺山門

大願寺 秦 秀子さん

さて、薬草料理であるが使用される薬草は季節によって異なるが、ツルムラサキ、ドクダミ、クコの実、アロエ、朝鮮人参などが白和えや酢の物、天麩羅になって登場する。薬草料理の献立は12品。
前菜、胡麻豆腐、酢の物、白和え、三種盛り、葛の刺身、薬草天麩羅、飛龍頭、黒米ご飯、吸い物、香の物、お菓子。中でも吉野本葛を使った葛の刺身は逸品。ぷるぷるとした食感と喉越しがなんともいえない美味しさである。
秒単位で味が変わるから「1秒でも早く召し上がってください」とすすめられたが、それほど繊細な味だ。胡麻豆腐も本葛と胡麻、水、酒、塩だけで火にかけてひたすら練り上げただけのものだが、口の中で溶けてゆく味は格別である。
薬草は境内や大宇陀周辺に自生しているものを採取しているため、季節によって内容が変わることもあり、薬草が取れない時期の冬季(12月〜2月)や夏季(8月)は休みとなっている。ドクダミやゲンノショウコなど薬草は匂いからして顔をしかめ「苦味」を想像するが、 大願寺の薬草料理は嫌味は全くなく、自然な滋味であり健康にもよく、心が癒されるから不思議だ。
なんとも至福の味わいである。飽食の時代、世界の高級グルメや食材がもてはやされる世の中で、野に自生する薬草達がこれほど心を和ませてくれるとは、新鮮な驚きであった。

薬草料理は3800円。一組2名から90名くらいまで受付していただける。必ず事前予約が必要である。


薬草料理  大願寺 TEL0745-83-0325

奈良の食文化研究会:木村 隆志



葛湯<森野旧薬園「葛菓子料理のしおり」から>

<材料>(4人分)
・本葛50グラム
・ねり胡麻40グラム
・水400ミリリットル
・塩、日本酒少々

<作り方>
@材料をよく溶き、鍋に入れ中火煮かけます。固まってきたら弱火にして更にかき混ぜます
(15分ほどかき混ぜるとねばりが強くなり、滑らかさが増します。)
Aぬらしたバットなどに流し、熱がさめてから冷蔵庫で1時間ほど冷やして適当な大きさに切り、わさび醤油で召し上つて下さい。