古代史の郷「明日香村」が、春爛漫の陽光を浴びて今大いに元気だ。 石舞台公園の一角にある「明日香夢市、夢市茶屋」は、平日であったがこの日も観光客がつめかけていた。この夢市の中心をなすのが「明日香村農産加工グループ」の九つのグループで、なかでも注目を集めている「味工房ゆめ明日香」は、地元の主婦4人が地域振興公社のあと押しで昨年4月にスタートした有限会社である。社長の藤本文江さんを中心に、4人の侍ならぬ4人の主婦がフル稼働で、地場の食材を使った様々なアイデア食品を加工し販売している。


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スタート時は慣れぬ事とて、休日なし給料もなし、てんやわんやの試行錯誤の日々で、試作し消えていった食品は数知れず。
一年たった今ようやく定番やヒット商品も出来、販売先もここ明日香夢市だけでなく、万葉文化館などの地元の施設、近鉄駅前夢販売所やホテル売店などにも拡大し、各種イベントに採用されるようになった。給料もなにがし確保できて、多忙なときにはパートさんにも来て貰っている。 兎に角地元の食材を使用する事に徹し、契約農家や自家製食材を使うことで完全安心を確保した。使う調味料も地元調達、惣菜、味噌やジャム、菓子類から漬物まで製品は全てここの工房での手造りである。

もちろん明日香らしい古代米などの食材を使った商品開発にも知恵を絞っているが、商品をより魅力的にする工夫も大事だと気ずき、包装やデザインは専門家に依頼して見栄えのよいものに仕上げた。 取材時に丁度古代米とアーモンドを使ったクッキーを製作中であったが、鉄板に一つ一つ練った原料を落とし、へらで形を整え粗挽きした古代米とアーモンドを均等に広げてゆく作業はまさにホームメイドの心のこもった菓子造りである。(写真1) 焼き立てを味見させてもらったが、快い歯ごたえと香ばしいアーモンドと古代米のハーモニーがなんとも嬉しく飽きが来ない。

この時期の一番人気商品は、特産の明日香ルビー苺をふんだんに使ったロールケーキである。甘味を押さえ、苺の味を引き立たせた一品は若い人や男性にまで好まれ、売り切れることが多い。


地場産の紫芋を裏ごしして作られた「紫芋ようかん」(写真2)は真に美しくみやびな紫色で、自然の食材が持つ色彩の見事さに感嘆させられる。 伝承の珍しい茶豆で作られる「茶豆味噌」は、米こうじをたっぷり使った独特の味わいである。
この日は遭遇できなかったが、古代種の黒米を混ぜて桜色に染めた「花見巻き寿司」は大人気の商品だ。

更に二階のレストランでは古代米や地元の食材を使った「飛鳥弁当」「さらら膳」なども食べることが出来る。 こうした古代米を使った食品開発は盛んで、グループのひとつ「神奈備の郷」が作る「神奈備餅」を試食させてもらった。いわゆる五平餅であるが、黒米が大変効果的に使われ、蓬餅の緑とペアーで色合いよく味も良く、明日香のお土産に最適である。 そして何より値段が安い。殆どの商品が500円以下で売られているのは嬉しいことだ。

こうしたグループが、伝承された地場産の食品にこだわって歴史的背景を生かし、訪れる人々に楽しく味わってもらえる食品を次々と誕生させていることは、実に素晴らしく頼もしい限りである。明日香という知名度の高さと其の名にふさわしい新たな“大和の味”が、生み出され発信されているこのエネルギーに、大いに元気付けられた一日であった。


奈良の食文化研究会:林崎 幸一