古代のチーズ「蘇「を使ったケーキがあるというので橿原市までやってきた。近鉄橿原神宮前駅前の橿原オークホテルでそれは作られている。

牛乳を飲むという習慣は、日本では既に飛鳥時代には王族を始めとする支配者階級に広まっていた。奈良時代の貴族も牛乳を飲んでいたらしく、大化の改新後、飛鳥で即位された幸徳天皇に牛乳を献上した記録も残っている。
牛乳が庶民的になったのは近代になってからだが、古代より牛乳を加工した珍味が作られていたようである。中でも有名なのが『蘇(そ):または酥』と呼ばれている古代チーズ。「延喜式」によるつくり方では牛乳をコトコトと、トロ火で煮詰めて8時間。水分を飛ばして元の十分の一位の容量の固形状にする、それが蘇である。

仏教の経典によれば「乳より酪(らく)、酪より酥(そ)、酥より醍醐(だいご)をつくる。醍醐は最上の美味」と言う言葉があり、中国の本草書に「醍醐は酥の精なり」という言葉もあります。栄養状態のよくない古代においては、まことに「醍醐味」であった。「蘇」をさらに煮詰めて作った「醍醐」は、最上級の物を意味し、醍醐味の語源であるといいます。   

二十年前、オークホテルでも万葉らしさをと和食の前菜に「蘇」を出したところ、お客様からとても好評をいただいた。それなら当ホテルで作っているケーキと結びつけて、新しい洋菓子が出来ないかと社長の林田邦弘氏が考案。しかし商品化にするには試行錯誤の連続。蘇とケーキが離れてしまうのを杏(あんず)ジャムなどで接着する方法を編み出し製法特許を取得。考案から構想まで十年、今日の古代チーズケーキを実現させたのが同ホテル製菓部の静川秋夫さんだ。

オークホテルの「蘇」づくりは牛乳だけで一切何も加えずただ煮詰めてつくるだけで昔の味だと思います。
と専務取締役の林田房恵さんは胸を張る。
製法の特許証


こうして出来上がったケーキの味わいは、濃厚なミルクキャラメルのような「蘇」とバターケーキのハーモニー。 ポップな色合いで蘇とケーキの絶妙なマッチングの洋菓子が誕生した。ネーミングは作家の邦光史郎氏が「飛鳥乙女」と命名。 苦労して今日の「飛鳥乙女」をつくりあげてきた同ホテルでは、万葉のふるさとの名物としてさらに広めて行きたい。そのために原料の生乳のこだわりやマーケティングに力を注ぎたいと同ホテル林田専務は語る。


まろやかな甘さの蘇とふんわりケーキの味が絶妙

まろやかな甘さの蘇とふんわりケーキの味が絶妙

飛鳥乙女は橿原オークホテルで手に入れることができる。6個入り1260円


奈良の食文化研究会:木村隆志



古代チーズ 蘇

<作り方>
@2Lの牛乳を厚手の平鍋に入れ、牛乳が泡立たない程度の極弱火で温めます。
A表面に生じる被膜を焦がさないように、丹念に攪拌を続けること4時間。
※被膜が厚くなり、かき混ぜる手に重みを感じるようになってきます。
更に3時間ほど続けて行くと、真っ白だった牛乳が褐色の粘りのある物体に変化します。
※気を抜くと焦げ付いてしまうため、手を休めずに練り上げます。
B十分に水分が飛んだところで型に入れ、しばらく冷やして出来上がりです。
※牛乳2Lから一辺10センチ、高さ2.5センチほどの正方形の「蘇」が完成。
所要時間、7時間強。

ママの味のミルキーや、ミルクキャラメルに近い香りがします。 これは、驚き!砂糖は一切加えていないのに、ほんのり甘味がありおいしい。 今まで食べた事のない新食感です。