大和の高取城は日本三大山城のひとつで、その規模においては日本最大である。中世に築かれてから廃藩置県で取り壊されるまで600年余の歴史を持つ要塞堅固の壮大な城であった。

「高取城は、石垣しか残っていないのが、かえって蒼古(そうこ)としていていい」 司馬遼太郎が「街道を行く」の大和・壷坂道の中で書いているが、その城跡の国見櫓に立つと大和盆地がパノラマで展望出来、晴れた日には大台ヶ原や遠く六甲山まで眺望できるそうだ。この城下町を貫く街道は、古くは土佐街道と呼ばれ、今も地名として土佐の名がある。大和朝廷が都を建設する為に全国から労働力を集めたが、労役が終わっても帰郷できない土佐出身の人達が、せめてもと住む地に土佐の名を付したのが発祥である。まさに古代が生きて引き継がれた大和の地だ。街並みは徳川時代の武家屋敷跡などが残り、整然としていて石畳を観光客が往来する。

そんな歴史街道で、地元の食材にこだわって新しい創作料理を出している店がある。店といっても外観も中の作りもまさに大きな旧家そのもので、太い梁や柱、黒光りする板敷きの広い部屋、そんな中に赤いカウンターもある。江戸時代の酒屋であった崩れかけた廃屋を5年前に改造して創作料理の店「やまと吉永」を開いたのは、吉永利夫(53)、和子ご夫妻。大阪で惣菜とお酒の店を開いていたが、奈良にハイキングに来た折見かけたこの旧家を見て「奈良に旨い物無しというなら,奈良に旨い物を作ろう」と、意気込んでやってきたそうだ

開店した当時は、周りから一年もたないだろう、とささやかれたが、何よりも地元の人達との交流を大切にした。そのうちご近所から自家で作った野菜やこんにゃく、採れたての筍などの差し入れがあったり、知り合いになった猟友会のメンバーから猪が捕れたと大きな肉塊を提供されたり、新鮮な鹿の肉を定期的に得られるようになったりして料理の種類も増えていった。この地で時期折々に得られる食材がメニューを作るという、まさしくアイデアの世界で、この5年間に作ったメニューは数百に上るという。
それらの内、定番になっている料理を2〜3紹介すると

・大和肉鶏を使っての、塩焼き、たたき、から揚げ、鍋料理

・大和肉鶏ミンチの白菜巻き大和芋とろろかけ

・地鶏サラダ

・レンコン団子吉野葛餡かけ

・大根ステーキ

・若ごぼうのお和え

・柿の葉ならぬ椿の葉添えさば鮨

・豆腐のとろろ焼き

・ころころこんにゃく

・鹿肉刺身、鍋(季節のみ)

・天然鮎の塩焼き(但し釣れた時のみ)

 

そのほか、季節によってメニューは変わる。特に、その日、その時期手に入ったものでの料理となるので、毎日異なるメニューが追加され、それがまた楽しみとなる。

奈良時代から徳川時代までの歴史が残る街中で、新しい創作料理を商いするこのアンバランスが、観光に訪れる人達からどんな受け止め方をされるのか。開店当初はお客様は違和感を持って訪れ食したそうだが、店主は初心である「地元の食材で奈良の旨い物を作る」に取り組み続けており、地元の安心で安全な食材の料理にファンも増え、次なるメニューを楽しみにして来てくれるとの事である。 伝統、伝承の料理も良いが、現代人の味覚になじむような新たな大和の料理を考え、提供することも必要ではないかと思う。ここを訪れる人々が果たしてどんな新しい大和の味に出会えるか、楽しみに見守りたい。


(上左から)・蓮根団子・胡麻豆腐・さば鮨
・地鶏ミンチ白菜巻き餡かけ・大根ステーキ

「やまと吉永」へは近鉄吉野線壺阪山駅下車 土佐街道を徒歩3分
電話:0744−52−1008(要予約) 営業時間:(昼)11時〜14時・(夜)18時〜22時


奈良の食文化研究会:林崎 幸一