雲母質の土が作り出すゴボウは風土が生んだ正月の縁起物
奈良県人でも宇陀地域がゴボウの産地であることを知っている人は案外少ない。このコーナーで大川博美氏(本会員)が宇陀ゴボウを紹介したのは六年前の春、種播きの頃。まだまだ知られてない大和の伝統野菜のひとつ「宇陀ゴボウ」、なかでも雲母質を多く含んだ土壌に育つ「金ゴボウ」の生産農家である宇陀市小附の上西進氏の畑を再び訪問させていただいた。
今回は十一月も半ばを過ぎた収穫の最も忙しい時期、山を開いた六百坪の畑は大きなゴボウの葉で一面覆われていた。

春季の種蒔きにも使用するパワーショベルは、収穫時のゴボウ堀りにはその力量を何倍にも発揮する。ゴボウとゴボウの畝の間にパワーショベルを置いて七十〜八十センチメートル近くまで土を掘りおこすと、掘った左右の土壁からゴボウが姿を現わす。
根茎を傷つけないように手で土を払い落とすようにしてゴボウを掘り出していく。機械を導入することにより、堀起こし作業は軽減したとはいえ、奥様とお二人で終日作業をしても十二畝が限度といわれる。先代までの鍬とスコップを使った作業は途方もない労力が必要であったにちがいない。とくに、ゴボウの細長い形状からみて途中で折れようものなら商品にならない。堀り起こして収穫されたゴボウはほんとうに立派で、表面に付着した土の雲母質が光っている。
ゴボウ畑は
@水はけがよい
A障害物がない
B土の粒子が細かい
などが条件であるというが、宇陀山間地の土壌は保水性に優れ、粒子が細かいことが特長であるから、まさに風土が生み出した産物であるといえよう。宇陀ゴボウは肉質の軟らかさと香りのよさに加えて、前述のゴボウに付着した雲母がキラキラ光るところから、とくに正月の縁起物として珍重される。江戸期の少し前から、ゴボウが贈答品や献上物として用いられた記録が『年中恒例記』『梵舜日記』『官中秘策』にあるが、「金ゴボウ」を初めて拝見したとき献上物とはこのような品物であったのかと改めて実感した。

師走に入って迎春の準備もそろそろという時期である。正月のお節料理祝い肴には欠かすことのできない「たたきごぼう」がある。その由来を辿れば、ゴボウは最初、「悪実」と称され、「薬用」として利用されていたが、時代を経て、野菜として発達し、伝統的な正月料理として伝承され、今や世界に類をみない日本のゴボウ食文化を作りあげたといわざるを得ない。
また、今日、ゴボウは機能性食品として整腸作用、降血糖作用など食品価値が再評価されつつある。日本の野菜を代表し、日本固有の食文化を創り上げたゴボウが今後も作り続けられるよう願ってやまない。

「宇陀金ゴボウ」が買える所=大宇陀道の駅(十一月一日より品物がある限り販売)
上西進氏宅(十二月十五日のみ自宅にて販売
この日のみの問い合わせ先電話0745(83)3543)


奈良の食文化研究会:冨岡 典子



ごぼうのはりはり

<材料>(4人分)
・細いゴボウ(小指の太さ) 200g
・酢 30cc
・しょうゆ 30cc
・砂糖 大さじ2
・塩 小さじ1/2
・白ゴマ 大さじ1

<作り方>
@細いゴボウ(太いものであれば小指の太さに切る)は皮をこそげて6cm大に切り、水にさらしてあくを取る。
A沸騰したお湯の中に酢を少し入れて硬めに(1分半位)茹で、ザルにとる。
BAのゴボウを熱いうちに酢、砂糖、しょうゆ、塩の調味料を合わせた中に入れて半日〜1日漬けておく。
C盛り付ける時に、粗擂りした白ゴマをふって供する。