「そばの風味は技術ではない。素材が決め手だ」と、豊田さんは言い切る。そばの実は外側の黒皮部分(玄)、米で言う玄米部分(丸抜き)、そして内層部分、これらをどんな比率で混ぜてゆくか、またそのひき粉の荒さが、食感と風味を決める。しかし一番大きいファクターは、そばの実の良しあしだ。実の成長に影響するのは朝晩の気温差。標高四百―五百での栽培が良い実を作るとのことである。
また、粉ひきは機械(ロールミル)でひくのが一般であるが、豊田さんがこだわる石うす(動力は電動)でひいたものは、粒度分布や粉末形状が微妙に異なり、味に決定的な差が出るという。この辺りがノウハウのようだ。
ひいた後の粉は鮮度が命だ。そばに延ばすまで、真空パックで五―六度の保冷庫に保存する。毎回一日分だけを粉にひく。これを薄く延ばして細切りにする。
作っためんが売り切れたらここまで。出かけられるときは予約を。席も二十人弱で満席となる。
乙女豆腐と称する自家製そば豆腐が付いたお薦めセットメニューの「海老(えび)おろし蕎麦」(千五百円)は、こだわりの桜海老の揚げたのをトッピングにしてある。さくさくとした歯ざわりが存在感を主張していて、そばとよく合う。
彩りにもこだわり、紫を基調としていて、紫芋や紫色辛みダイコンなどを使ったあしらいがそこここにある。刻みワサビを好みに応じて散らすと食欲の落ちる夏場でも、お代わりが欲しくなるような食べ心地だ。最後に出されるそば湯は粘り気のある立派な味で、気分もしゃきっとする。
|