金剛葛城山麓の朝。この地にはなんとも言われぬ郷愁を感じるから不思議だ。
深呼吸をすると体の中まで洗われるような清々しい空気がとても気持ちがよい。せせらぎの水のきれいなこと。やさしい朝の太陽の恵みをいっぱい受けている土地。自然とふるさとの景観が残されていて、神々の地にふさわしい葛城古道。この恵まれた地にいまだに昔ながらの天然醸造で醤油づくりを続けておられる「片上醤油」さんを訪ねて見ました。
年期の入った木の大きな樽と香ばしい醤油の香りが出迎えてくれた。開口一番、「こんな手間暇かけて、儲けの薄い仕事をしているのは、うちぐらなもんですわ。」といまだに手作りにこだわりつづけて醤油づくりを営んでおられる「片上醤油」片上裕之氏。


<恵まれた自然環境の片上醤油>

<方上 裕之さん>

醤油のルーツ
しょうゆのルーツは、古代中国に伝わる「醤(ジャン)」であるといわれている。これはもともと原料を塩漬けにして保存したことから始まったもので、果実、野菜、海草などを材料にした「草醤(くさびしお)」、魚や肉を使った「魚醤(うおびしお)、肉醤(ししびしお)」穀物を原料とする「穀醤(こくびしお)」などがあり、しょうゆはその中でも米・小麦・大豆を使用した穀醤が原型と考えられている。
日本に「(ひしお)」として伝わったのがいつ頃なのかは明らかではないが、大宝律令によると、宮内庁の大膳職に属する「醤院(ひしおつかさ)」で大豆を原料とする「醤」がつくられていたとされている。
この「醤」は今でいうしょうゆと味噌の中間のようなもので、宮中宴会などで食卓にのぼっていたようである。
その後、信州の禅僧・覚心(かくしん)が1254年(鎌倉時代)に中国から持ち帰った径山寺(きんざんじ)味噌の製法から、味噌づくりが開始。紀州・湯浅の村人にその製法を教えているうちに、この醤からしみだす汁がとてもおいしいことに気づき、今でいう「たまりしょうゆ」になったという。


<木樽で時間をかけ熟成発酵>


天然醸造へのこだわり
それにしても年代を感じる片上醤油さんの木樽。この木の樽にこだわる理由はなんですかと聞いてみた。
「木のなかには無数の酵母菌が生きているのです。金属のタンクではこの菌は生きてゆけません。片上醤油はこの菌のおかげでおいしい醤油を供給出来る財産なのです。この樽に、もし変な菌が浸食してきたらその樽の醤油は4?5年は廃棄処分しないと元の醤油にはなりません。それに木の樽は自然な温度管理の調節の役目をはたします。」と木の樽でつくる醤油づくりの難しさと、おいしさを力説。「いまは、どの企業も大きな熟成タンクでコンピュータの温度管理で均質的な醤油を量産していますが、私どもはあくまで自然を相手に手作りにこだわって、醤油の文化を守り食卓の文化を創造したいと思っています。ですから量産は出来ません。手間暇もかかります。量産された醤油よりも値段は高いです。でもお刺身に1回使って1円が3円になりますが、3円で刺身の味が一段とおいしくなるのでしたら決して高くはないと思います。」と天然醸造ならではの醤油の味を守ってゆきたいと語る片上裕之氏。



醤油のおいしさの秘密
しょうゆのおいしさは、醸造過程における3種類の微生物のはたらきによって造られている。まず、「麹菌」は、いろいろな酵素を造りだし、原料である大豆のたんぱく質をベプチドやアミノ酸に分解、次いで小麦のでんぷんをブドウ糖に分解。こうしてつくられた基本的な成分を乳酸や酢酸などの別の成分に変えるのが「乳酸菌」でしょうゆの味に深みを与える。最後に登場する「酵母」は、糖分やアミノ酸からアルコールやいろいろな芳香成分をつくる。しょうゆらしい香りはこれによって醸し出される。こうようにしょうゆの特徴である「色」「味」「香り」が完成。しょうゆが多くの人に愛される秘密は、ココにある。 帰りに買ってみて味を確かめましたが、なるほど本物の醤油は味の深みもコクも全然違う。なんといっても香りがいい。この醤油ならわざびを溶くのはもったいない、それほど風味のあるしょうゆであると感じた。これからも日本の醤油文化を守っていただきたいもの。


<左から「自家用たまり醤油(360ml)735円」、「天然醸造醤油(360ml)367円」、「淡色天然醸造醤油(360ml)630円」>

お求めになりたい方は直接電話で申し込むと送っていただけます。
片上醤油 奈良県御所市森脇329
TEL(0745)66-0033 FAX(0745)66-1933


奈良の食文化研究会:木村 隆志



醤油

<材料(3〜4人分)>
・小麦(全粒)1kg(なければ強力粉で代用)
・大豆1kg
・塩540g
・水3リットル
・麹菌(手に入らないときは方上醤油へご連絡ください)

<作り方>
@小麦をフライパンで焦げる寸前まで炒ります(ぱちぱちとはじけだしたら頃合い)
A冷ましてから、すりこぎでおおざっぱに砕きます。
B大豆は一晩水に浸けた後圧力鍋で1時間以上(普通の鍋なら8時間以上)煮る。
CBの煮汁を捨て、少し冷まして(40度くらい)小麦と混ぜる。
DCに麹菌を混ぜ、30度で3日置きます。最初は山形に盛って保温し、自己発熱が始まると平らにならして放熱させます。※40度以上になると失敗しますから温度計でチェックしてください。
E2日目には固くなってきますからほぐしてください。
F3日目全体に緑がかってくると6.に塩水に仕込みます。(塩水の濃度は18%見当)
G仕込みの割合は、大豆1小麦1塩水3くらい。大豆1キロ、小麦1キロならば、塩約540グラムに水を注いで3リットルにします。
H腐敗防止のため、仕込んでから3週間くらいは冷蔵をお勧めします。
I外に出して品温が上がってくると醗酵します。醗酵している間は3日に1回くらいかき混ぜてください。
Jふた月くらいで醗酵は終わりますから、その後半年から1年寝かせてから布で絞ります。
K汁はなべで70度くらいまで炊いて殺菌します。これで出来上がりです。