<食育コミュニケーションを図る喫茶店『夢ラッテ』>

葛城山の中腹に山口という集落がある。この地より先には今でも人が住んでいない。
1300年頃の昔、葛城の地で生まれ育った役の行者が活躍した修験道の場だ。この葛城修験の入り口となるのが山口である。さて、この葛城市山口で酪農業を経営されている「農業法人・ラッテたかまつ」高松久仁子さんを訪問した。ラッテたかまつさんのアイスクリームやヨーグルトの味の評判を聞いたからである。

酪農へ夢を膨らませたきっかけ。
酪農を始めて40年、乳製品の加工を始めたのは9年前。短大の北海道への卒業旅行で、草原の牧場で飲んだ搾り立ての牛乳の味が忘れられず、こんなおいしい牛乳が飲める仕事をして見たいとの思いから一念発起、酪農を志す。たが当時は牛を飼う技術も知識も何もない素人。宇陀の畜産試験場に1年間かよって酪農を学んだ。そして両親に懇願して牛1頭と牛舎を造ってもらったのが酪農を始めた最初であったという。
想像以上に酪農の仕事はきつく、男性でもしたがらない仕事を、若い女性が始めたのだから苦労が想像できる。人からも「あんた見てたら可哀想や、どこかきれいな仕事見つけて勤めに行ったほうがええ」と言われる始末。しかしこんな言葉が逆に「絶対にやめへん」という強い反骨精神と信念に変わって行く。
牛を繁殖させ、わが子のように育て、そしてわが子同然の牛が牛乳を生産し利益になる。こんなうれしいことはない、酪農はこれが生甲斐であり、醍醐味だ。


生産調整で涙を流して捨てた牛乳。大病で廃業も考えた時代。
酪農を始めた頃は2年に1回、乳価値上げがあり「酪農も捨てたもんやないな、頑張り甲斐がある」と思っていた。しかし、昭和58年頃から牛乳のダブつきで生産調整始が始まる。
「一生懸命絞った牛乳を田圃に捨てるのです。これほど悲しいことはなかったです」と高松さんは当時を振り返る。この牛乳をなんとか利用出来ないかと考えながらも平成4年に大病をする。廃業も考えたがご主人や子供さんが支えてくれた。そんな時たまたま入院生活で出会った方にヨーロッパでは農家で絞った牛乳でチーズを作って売っている。農家によって違うチーズ、即ちハウスチーズがあり消費者は自分が気に入った農家のハウスチーズを買いに行く。と乳製品加工での活路を教わり励まされた。
このような動機付けがあり、奈良県の女性海外派遣事業に応募して10日間の海外実習でイギリスとドイに研修に行くチャンスに恵まれた。


<高松 久仁子さん>



人生を変えるカマンベールチーズ博士との出会い。
海外研修生の仲間が奈良県の牛乳でチーズを作りたい人がいるので牛乳を譲ってあげてとほしいと依頼された。その方に牛乳をお分けしていたが、この方との出会いが人生を変えるきっかけとなる。
この方はカマンベールチーズ博士といわれる河合恒彦氏である。先生のカマンベールチーズを知って、益々チーズのおいしさに惚れ込み、何としてでも自分の牧場で作って見たいと、気持ちは高まるばかり。先生に誘われて、大阪の農芸高校で高校生と一緒にカマンベールチーズの実習に参加。3週間後、真っ白になったカマンベールチーズを見て、「自分の搾った牛乳で、こんなに真っ白でおいしそうなチーズができるようになったら」とさらに夢が膨らむ。いずれは「ラッテたかまつ」牧場を子供達にバトンタッチするにも何かを残したいとの考えから、「やるなら今しかない」と決断。乳製品づくりに取り組む。普及センターの協力もあって、試行錯誤の繰り返しで、ようやくヨーグルトやアイスクリームが出来るようになる。しかし、今はまだ本格チーズづくりには踏み切れないが、あのカマンベールチーズを作りたいという気持ちは変わらない。



本場欧州のあの味、ケフィアヨーグルトのこだわり。
まだまだカマンベールチーズをつくる技術も設備もないのでヨーグルトづくりから始める。しかし独自のものをと考えたらヨーグルトもこだわりたい。河合先生のご縁でケフィア菌を手に入れることが出来た。
この菌は北海道日高乳業さんと「ラッテ高松」だけしかないからと言われ、こんな小さい牧場が旗を上げるには、この菌しかないと確信しケフィアヨーグルトづくりにチャレンジ。ケフィアヨーグルトは手間ヒマがかかるから大手メーカーでは作りにくい。「それならケフィアで勝負だ」。
今ではヨーロッパ旅行経験の方から「本場の牧場で食べた、あのおいしいヨーグルトの味だ。」といわれホテルなどからの注文も相次いでいる。このヨーグルトもおいしいが、アイスクリームも実においしい。これは乳脂肪が高く濃厚な味で評判が高いジャージ牛の牛乳を使用しここだけの味。
現在、ここで出来る製品はメーカーへ原乳供給と一般向けに販売しているアイスクリームとヨーグルトとモッツレラチーズ。「でもカマンベールチーズをつくらないと人生終わらない」と高松さんの思いはまだまだ健在だ。


<ラッテたかまつの製品>



通常のヨーグルトよりも、体をもっと元気にするケフィアヨーグルト。
ケフィアヨーグルトは乳酸菌(6種類)と酵母菌(10種類)が含まれており、酵母は体にとてもよい働きをする。24時間かけて24度の低温発酵でじっくりつくるから酸味が少なく、無糖でも本当においしい。ケフィアヨーグルトは腸内の善玉菌を増やすと言われ、糖尿病、心臓病、肝臓病、慢性肺炎、胃カタル、貧血、過労、肥満、血栓などによい働きをすると言われている。さまざまなパワーが見直されているヨーグルト。
中でもケフィアヨーグルトは、多くの乳酸菌と酵母が、美容と健康を維持してくれる。まさにヨーグルトの王様だ。コーカサス地方では、古代、山岳民族の間で、牛乳を山羊の皮袋に入れて自然発酵させ、取り出した分だけ新鮮牛乳を補いながら、連続して発酵させて飲用していた。これがケフィアの誕生だ。
ヨーグルトは乳酸菌だけの単独発酵による発酵乳で、腸内の悪玉菌の増殖をおさえるヨーグルトパワーを持っている。ではケフィアヨーグルトは、乳酸菌と酵母の複合発酵によってできた発酵乳である。したがって、乳酸菌発酵による産生物と作用。酵母発酵による産生物と作用。さらに乳酸菌と酵母の共生作用による産生物と作用と、ケフィアヨーグルトのパワーは乳酸菌単独のヨーグルトよりもさらに大きいことがわかる。
通常のヨーグルトは 乳酸菌パワーの1つであるのに対し、ケフィアヨーグルトは乳酸菌パワー・酵母パワー・共生パワーの3つのパワーを持っている。ミルク文化先進国のヨーロッパでは、日本で市販されている乳酸菌のみの単独発酵乳とともに、ケフィアヨーグルトのように、乳酸菌と酵母の複合発酵もポピュラーだ。しかし、ケフィアヨーグルトは、酵母によってアルコール発酵するため、温度管理が難しく微妙な温度で味が変わってしまい、容器の破裂の問題が発生する。ヨーロッパでは、容器の「ふた」に小さな穴を開け、これを解決している。
ところが、日本では食品衛生法上これが許されず、酵母が生きているヨーグルトは店頭販売されていない。「ラッテたかまつ」でも直販のシステムをとっている。


<濃厚な味で評判のアイスクリーム>



広める育てる「食育コミュニケーション」への役割。
本格チーズづくりは現在の加工場では無理なことからフレッシュモッツレラチーズから始めた。だがこのチーズは1リットルの牛乳から100グラムしかできない。手間ヒマかかって利益率が低い。
それならチーズを使った料理やアイスクリームなどをここで食べていただこうと考えた。
平成10年に大きな台風が来て小屋が倒れたのだが、その材木を利用してテラスハウスをつくり、材木の再生ができた。このテラスから望む大和三山や奈良盆地の景観がすばらしい。バーべキューを楽しんでいただけるように無料で場所を貸していただけるのも有り難い。将来の活動はとお聞きすると、私たちは子供たちに経営をバトンタッチして行く立場ですが、この場所を活用して学生の酪農体験や一般の方の牧場体験(乳搾り、アイスクリーム、バターづくり)や乳製品を使った料理の提供などを通じてのいろいろな方との交流を深めたい。
酪農、農業などへの理解と、また私共は消費者の方々の声をお聞きし、相互のコミュニケーションを深めながらの「食育」というテーマに取り組んでいきたい。と高松さんはいう。

役の行者のゆかりの葛城の地であらためて「食の大切さ」「食の楽しさ」「農業の大切さ」の再認識と「自然との共生」を考えさせられる1日であった。



アイスクリーム・ヨーグルトなどのお問い合わせは下記へ
農事法人・ラッテたかまつ
〒639-2134 葛城市山口202-1
TEL0745-62-3953 FAX0745-62-4010


奈良の食文化研究会:木村 隆志



りんご入りヨーグルトシェイク

<材料>(3〜4人分)
・りんご40g
・プレーンヨーグルト50g
・砂糖大さじ1・1/3
・水大さじ2

<作り方>
@りんごはしんと皮をむき、コロコロに切ります。
A@とヨーグルト、砂糖、水を加え、ミキサーにかけます。
Bりんごがよくつぶされジュース状になったら出来上がりです。