<手作りハム・ソーセージばあく・ゲストハウス>

金剛おろしの冷たさが鋭く、ちらちらと雪が舞う大寒の頃、五条市金剛山麓にある手作りハム&ソーセージ工房“ばあく”を訪ねてみた。御所市国道24号線の寺田橋から山手へ山麓線を左折して五条方面へ。
5分ほどで“ばあく”の案内看板があり、案内に従って細い山道へ少し入ると目的地である。
工房では白い帽子、白いエプロン、白いエプロン姿の主婦のスタッフの方々のイキイキした動きは小気味がよい。しっかりと事業の取り組み姿勢が皆さんに浸透しているのだろうと推測される。
豚の飼育25年、ハム、ソーセージづくり20年の“ばあく”スタッフの泉澤さんにお話を聞く。

「甘くて香ばしい昔食べた豚肉へのこだわり」
子供の時に食べた豚肉、甘くて香ばしかった。脂が多かったけどプリッとして蕩けるようでおいしかった。
あんな豚肉をつくってみたいとの思いで始めたのが豚の飼育原点であるという。生産した豚を豚肉に処理してもらった時に自家消費ではどうしても余って困った。
そこで地元の方やPTAの方などへ買い支えで協力してもらったのが“ばあく”前身の始まり。しかし当時、肉をスライスする道具がなくブロックで提供したが、ブロック肉だけでは使い勝手が分からず、冷凍庫にゴロゴロしているだけで「もういらんわ」と利用が低下した。
それをきっかけにソーセージやハムづくりにチャレンジ。加工肉製造の少しの知識はあったけど最初は遊びの感覚でつくり始める。添加物は使わず塩だけで試行錯誤の繰り返しでなんとか商品にこぎつけた。

これが少しずつ地域に知れるところとなり、分けて欲しいという声が広がり始めたのである。それならこのハムやソーセージづくりで仕事にしようと、泉澤さんは考え出資者を募ったら17名が集まった。
この出資者にお客さんを捕まえて来てと依頼したら60名の顧客になったという。さらに顧客を広げようとしたが「豚は脂が多いし、臭いからいらん。」という人が当時はまだまだ多かった。そのころの豚肉は今ほど味も香りも良くなかったという。「私らの子供の時に食べたあの豚肉はなんやったんやろ」というみんなの気付きがあって、さらに学習を深めた結果それは飼料にあった。なにしろ豚は人間の10倍の餌を食べるから餌の配合は豚の味を大きく支配するのである。



「毎日が味の安定への戦い」
“ばあく”ではいろいろな試食会やお客様の声を直接聞きながら、試行錯誤で豚を飼育する訳であるが、
とてもおいしかったり、おいしくなかったり、味が安定しない時もあった。
「最近、“ばあく”の豚肉はまずくはないけれども、にんまりする美味しさがないね。」という声やイベントの時にお客さんから「最近何か味が変わってきていない?」といった声がチラチラ聞こえてきた時もあります。
これは何かあると気がついて、餌を徹底的に調べたところ僅かに3%を配合している国内産小麦のふすま(小麦のヌカ)の品質の劣化が原因であることがわかった。たかだか3%の餌の品質が顧客離れを引き起こすことにつながるかと怖さも知った。味の安定には絶えず努力が必要だ。
お客さんからの要望や叱咤激励をだたひたすらに勉強する毎日であった。今年で24年、ブレながらもおいしいものを提供し続けて来たと泉澤さん。


<喧々諤々の商品づくり・検討会>



「経済性よりも味へのこだわりに賭けた豚の生産」
現状、多くの畜産農家は大型の豚で早く太らせ、早く出荷させる経済性優先の傾向にある。
“ばあく”の豚は“ばあく”用に育て、少し脂身を多くして味本意のこだわり。この脂身はプリッとした蕩ける甘さ、それでいてヘルシーで本当に美味しい。
味の良い“ばあく”の豚肉も市場の基準ではランク外になっている。しかし昨年からやっと“ばあく”の豚肉の味をわかっていただき、上ランクの価格で売れるようになってきている。
「20年養豚を初めてやっとです。」と泉澤さんは顔をほころばせる。

現在の“ばあく”の豚は大ヨークシャ、ランドレース、デユロップなど(白豚)に中型バアクシャ(黒豚)をかけ合わせた豚(茶系豚)である。多くの豚の生産者は大型の大ヨークシャを飼育しているという。
これは背中のロースの部分が多く取れるので経済効果が高くなる。
“ばあく”の豚は中型で肉の歩留まりからは不利であるが、この種の肉はもち豚といって繊維がこまかく、粘りがあって、おいしいからこだわるのである。



「ハム・ソーセージのこだわり」
当初は手捏でソーセージを作っていたが、その作業も年齢と共に辛らくなってきた。それではと高速カッターを用い、肉をドロドロにして腸詰を試して見るが、“ばあく”の肉では普通のソーセージになってしまう。
これでは食感がないのがわかり、やはり、“ばあく”のソーセージは手で捏ねることに活路を見出す。

その矢先、もち豚に適したゴロンゴロンと捏ねる機械がみつかり、“ばあく”独特の食感を壊すことなく、作業効率も高まったという。何年かの学習を経て、すね肉をベースにウデ、モモ肉を加え塩に2週間漬け込んで熟成させることで安定した食感が得られることを発見。仕上げに燻煙での香りと色づけは、ソーセージで1時間、ハムは8時間、ベーコンでは10時間の燻製。これで2週間の賞味期限を保持。
かなり四苦八苦して現在の安定した味になったという。味はやっぱり素材のよさ、食べたあとに残るのは素材である。豚肉、食塩、香辛料だけで添加物一切なしでつくったお母さんの手作りハム・ソーセージ、皆さんに是非食べていただきたい味である。


<ばあくのハム・ソーセージ贈答セット3800円>



「これからの“ばあく”」
10年前シルクロード財団から金剛葛城の地域で何か食文化で残せるものをという依頼があり取り組み始めた私たちも生活を支えるものと仲間づくりとしての取り組みを始めた。
また山麓線につながる農家やパン屋さんや豆腐屋さんや木工屋さんなど、考え方や気の合った方々の賛同者で始めた「食の乱反射の会」も17件の生産者にまで広がった。

異業種で活動するようになってお互いの事業の補完が行えるようになり、例えば会のメンバーで赤米・黒米をつくっているメンバーがいて、その黒米や赤米をつかってパンをつくる。
豆腐屋さんが提供する豆乳でパンをつくるなどコラボレーションが生まれている。
またメンバー間の本音の切磋琢磨で事業への本気が芽生えてきた。
山麓線が五条方面へつながって“ばあく”への交通も便利になった。「うまいもん。ええもん、ここらへん。」
こんな取り組みテーマで地産地消を実現して行きたい、地元の良い商品を知って欲しいと泉澤さんはいう。
シルクロード財団で勉強や色々な方々と交流が、今日の動機になった。 これからも。この美しい金剛葛城山麓の田園風景の景観を守ってゆくためにも農業主体とした発展を目指したいと泉澤さんはいう。


<ばあく 泉澤ちゑ子さん>



手作りハム・ソーセージ“ばあく”
五条市小和町719
電話0747−25−0701
http://www.syokuran.com


奈良の食文化研究会:木村 隆志



酒豚鍋

<材料>(4人分)
・豚ロースしゃぶしゃぶ用300g
・白菜400g
・きぬ豆腐1丁
・生わかめ40g
・だし昆布10g
・ポン酢大さじ8
・大根おろし200g
・青ねぎ1本
・A)酒1カップ、だし汁4カップ

<作り方>
@白菜は、鍋の深さに合わせて約8cmの長さに切る。豆腐は8個に切る。わかめは水に戻し、8cmの長さに切る。大根はすりおろし、青ねぎは小口切りにする。
A土鍋底に昆布を敷き、白菜を鍋のまわりに立てて入れ、白菜と白菜の間に豚肉、わかめを挟み込み、真ん中に豆腐を入れる。ひたひたのAを加えて火にかけ、煮えたところをポン酢と薬味でいただく。

●ワンポイントアドバイス
ロース肉は背中の中央部分の肉で、きめこまかく、柔らかくほどよく脂肪がついていて、豚肉の旨味が堪能できます。