大和三山ふるさとの風情を今に残す酢屋の甍(いらか)

今年の夏は例年にない猛暑の空梅雨で水不足を心配していたら、一転例年にない大雨、長雨。
また梅雨が明けてからは一気に猛暑が続いている。「例年にない」という天候が続いているが、「例年にない」がいつのまにか「例年通り」にならないよう願いたいものである。
さて猛暑といえば夏負け、暑気あたりが気になるところである。食欲不振になりがちで、さっぱりとした酢の物が好まれる。特に旬の鱧(ハモ)の皮とキュウリもみの酢のものはビールの肴にもおつなものである。
夏場のさっぱりとした食べ物で重宝されてきた酢。昨今の健康ブームで見直されている酢。今回はそんな話題の黒酢の秘密を取材してみたいと思う。

奈良県で唯一の純米酢メーカー橿原市中町のミヅホ株式会社を訪ねて見た。
稲の緑一面と夏の青空のコントラストが美しい田園地帯。おだやかないにしえの風情が色濃く残る地にミヅホ株式会社はある。

だがここも都市化の波におされ住宅開発がこの工場近くまで押し寄せてきている。目を瞑るとその昔、三輪山を望み大和三山に囲まれた田園一面が続く中にポッンと大和棟と大和瓦の工場が浮き上がる光景が目に浮かぶ。風格を誇る酢屋の甍(いらか)の波が明治10年創業の伝統とのれんを物語っている。
夏の暑い日にミヅホ株式会社専務の大西甚吾氏がにこやかな顔で出迎えてくれた。「毎日、暑いですね。」酢の香りがただよう工場へと案内された。

大西 甚吾氏

強い臭気で鼻から喉へ、そして涙がにじんでくる刺激臭であるが、なんだか体に良さそうな快い刺激である。工場内の梁や柱には創業より代々引き継がれてきた麹や酵母菌が住みついていそうな気配である。伝統のDNAが木造の建物の中に脈々と生きて見守り受け継がれているようである。 飛鳥時代に伝わった米酢、昔ながらの吉野杉桶での熟成製法に今なおこだわるミヅホ酢。日本の酢づくりは応神天皇の時代(四世紀後半)に酒造りの技術と共に、中国から韓国を経て和泉の国(大阪府南部)に伝えられ、飛鳥時代の大和地方に広がったと言われています。本家の中国では酢のことを昔から「苦酒」の別名で呼んでいますが、これは酒を長く置くと酢に変わり、苦い酒になることから名づけられたものです。 米酢を調味料として使われたのは奈良天平時代であるという。(八世紀)の万葉集に「夏の宴会に醤(ひしお)と酢に蒜(ヒル・せり科のこひるの麟茎、にんにくに似た臭気がある)をつきあわせて、それで鯛の切り身を涼やかに食べたいと思っている私にそのような子葱を煮た熱い料理をみせないでおくれ」といった意味の歌が載っており、すでに貴族の間では酢の利用が日常化していることが伺える。

さて日本に伝わった米酢の醸造は江戸時代になって、紀州の粉川、尾州の平田、相模の中原、駿河の善徳寺など全国的に広がったといわれる。一方、薩摩半島でも中国の漂着船から伝わったとされ、酢瓶で造る独自の米酢醸造が盛んになったと言われている。 大西専務いわく、「昨年は健康ブームで酢の売上げも一時的に良かったのですが、今年はもう一つですわ」。 現在の酢に至るには紆余曲折があり、戦時中(昭和17年)原料米が統制になり米酢造りが中断されたことや最低4ヶ月以上もかかる米酢を造るより、手っ取り早くできるアルコール酢や合成酢を造ったほうが経済的であった。また酢までいかず酒の所の醸造で打ち切って市場に出したほうが利潤が上がるなどの理由から醸造業者がどんどん減少。
現在、大手の大量生産醸造酢メーカーを除いて、昔ながらの伝統製法で量産できるのは薩摩焼のカメで造る黒酢(鹿児島県福山町地区)と杉の大桶でつくる大和橿原市の当社が代表的な産地となっている。しかも吉野杉の大桶で酢を造るメーカーも当社を含めて数える程しかないのが現状のようである。
まろやかな香りと旨みの秘密は、吉野杉の30石大桶でじっくり静置熟成と三段仕込み。
食酢の種類は醸造用アルコールをそのまま醸造させた「アルコール酢」。小麦やとうもろこしなどの穀物で穀物酒をつくり、それに醸造用アルコールを混ぜて酢にした「穀物酢」。米をお酒にするが醸造用アルコールを混ぜ合わせて醸造した「米酢」。米からお酒をつくり100%米のみで混ぜ物なしに醸造させた酢を「純米酢」に分けることが出来ます。 ミヅホ酢はすべて純米酢で手間ヒマかかる三段仕込み。
三段仕込みとは
@原料の米に麹菌をかけ米こうじ(糖化させる)を造る
A米こうじに酵母菌でお酒にする
Bお酒に酢酸菌を働かせ酢を造る
このように純米酢は3つの異なる微生物で3度醸造させるという世界でも例がない発酵食品なのである。
「大手メーカーさんは新しい技術や機械化で短期間にどんどん製造ができる生産環境ですが、当社は逆に微生物をゆっくり、ゆっくり働かせてわが子を育てるように、じっくりと10ヶ月以上もかけて芳醇で旨みのある純米酢や黒酢を造っています」と大西専務は胸を張る。

専務(右)と工場長(左)

吉野杉の大桶

カメ(つぼ)で造る鹿児島の黒酢と吉野杉の大桶でつくるミヅホの黒酢・純米酢 鹿児島の黒酢は米を焼酎にしてカメ(つぼ)で醸造・熟成して酢にする。カメは温度管理が難しいので温暖な九州の鹿児島ならではの醸造法である。 ミヅホの純米酢や黒酢は焼酎ではなく日本酒から醸造・熟成をする。大和盆地は冬の冷え込みが厳しいので保温性の優れた杉桶が利にかなっているのかも知れません。

ミヅホ酢が吉野杉の大桶熟成にこだわるわけは、灘、伏見と日本酒の栄えた所の酒作りを支えた吉野杉の大桶・大樽づくり技術。その文化と吉野杉の育成を望んでいるからなのである。30石(5400リットル)もの大桶、杉桶で酢を熟成する利点は、杉の桶の中に宝物(酢酸菌)が生息することと、保温性に優れ温度管理がし易いから。しかし昨今、30石もの杉の大桶をつくる職人が少なく、現在では堺市に1社あるだけで、そこも後継者難で将来が不安であると嘆く、奈良の優れた食文化を支えてきた吉野杉の桶や樽づくりの 継承が必要だ。

米の食文化が産んだ知恵、黒酢は世界に誇れる健康食品、 純米酢・黒酢は世界のどの発酵食品にもないユニークなつくり方をする。日本人の生命をささえてきた栄養源の米を、3度異なった微生物で3回醗酵させるという知恵の産物である。米を一ひねりどころか、三ひねりもして出来上がったのが世界に誇れる純米酢。世界には古くからヨーグルト、チーズ、味噌、納豆、酒、など多くの発酵食品がある。それらは微生物の力で元の原料よりも、より栄養に富んだ健康で保存の効く食品に変化させる特徴をもっている。大豆に麹菌を働かせた味噌や醤油。大豆に納豆菌で納豆。牛乳に乳酸菌でヨーグルト、チーズ。米に麹菌と酵母菌でお酒。野菜に乳酸菌を働かせて漬物。と人類は海山の恵みと塩を原料に微生物を巧みな温度管理で醗酵させて保存食や健康食を造るという知恵を編み出した。
特に純米酢、黒酢は異なった3度の世代交代の微生物で、3度の醗酵の先例を受けて出来上がる醗酵食品で世界に類がない健康食品である。吉野杉の木桶と米と水と醗酵技術と風土が相まって生まれた優れた酢の食文化。世界に誇れる食文化。絶やすことなく継承していただきたいものである。


奈良の食文化研究会:木村 隆志



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<材料>(4人前)
・果実(季節のもの)350g
・純米酢350ml
・氷砂糖(または砂糖)350g
・蓋の出来る広口びん

<作り方>
●いちごサワー
イチゴは水洗いし、十分水切りをしてヘタを除いてください。いたみの部分は取り除く。
広口瓶にイチゴ、氷砂糖を入れ、最後に純米酢をし注ぎます。蓋をして冷暗所に保存します。
翌日から毎日一回軽く混ぜ合わすとまろやかさを増します。1週間後に果実を取り除いてお飲みいただけます。

●りんごサワー
よく水切りをし、皮付きのまま4つ切りにして芯をとります。5mm位の薄きりにして漬け込みます。

●バナナサワー
皮をむいて5mmくらいの輪切りにして漬け込みます。いたみの激しい部分は取り除きます。

●レモンサワー
お湯でよく洗い水切りをして2〜3mm位の輪切りにして漬け込みます。お酢は2割程度少なめに。

●ぶどうサワー
よく洗い水切りして房からとり、漬けます。大粒のものはつまようじで穴をあけます。

サワードリンクは小さな瓶に移し変えて冷蔵庫で保存。おいしくお飲みになれる期間は5ヶ月程度です。