七月七日、今日は「七夕」。細くて長いそうめんは平安期の宮中七夕に使用されたとあり、大宮人は麦縄またはゾロ、ゾロゾロなどと呼んでいて七夕に食べる素麺は年中行事になっていた。この日にそうめんを食べると病気にならないといわれ、祝い事にも用いられたようである。
素麺は織姫の糸になぞらえたもので、昔から夏の贈り物は「そうめん」と決まっていた。江戸初期までは2メートルもの長いままで、大変苦労して食べたらしい。
幕末の画家・河鍋暁斎(かわなべきょうさい)が、長いそうめんを食べる滑稽さを描いている。
そうめんは奈良時代に中国より「索餅」(さくべい)として伝えられた。その後、小麦粉と米粉に塩を混ぜて伸ばした小指くらいの太いものと、米粉の代わりに油を塗布して細く伸ばしたものが、鎌倉時代の留学僧により再伝来する。今日のそうめんである。
そうめんの作り方は江戸中期の「和漢三才図会」1713年にその製法が出ている。その文献によると今日の手延べ素麺の製法とほとんど変わらないのには驚かされる。小麦粉に塩水を混ぜ、グルテンを形成させた生地に、油を塗布しながら紐状に伸ばし、竿に八の字に掛けてから、糸のように細長く伸ばしていく、細く伸ばしていく途中で切れないために驚くほどの様々な知恵と工夫が見られるのである。
@温度・湿度により、仕込みの塩濃度を調節する。
A何回も油を塗布して表面の乾燥を防ぐ。
B縄のように捩(よじり)をかけて伸ばす。
C伸ばしたら休ませる。
D熟成しながら伸ばす。
E38時間かけて、ゆっくり伸ばし乾燥する。
現在の手延べ素麺技術は江戸時代にほぼ完成されたものであり、その製法技術を伝承しているのである。
しかし、現在では原料調達や自然環境や市場環境も様変わりして、生産コストを優先した機械製麺の登場など、昔のような条件で素麺づくりが出来にくくなってきているのも現状のようである。
江戸時代から伝わる、手延べ素麺技術の伝統を頑固に守り、且つ、新しい技術と原料素材のこだわりで、味の三輪素麺ブランドづくりに熱い情熱を傾けているのが「株式会社三輪山勝」 六代目山下勝山氏である。
<国道165号線長谷寺途上の三輪山勝のそうめん直売所>
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勝山氏は三輪素麺のブランド価値を高めたいと日夜、研究開発を続けている。ある日、お客様から「素麺はおいしいけれど、あの油臭さは何とかならないかしら」という声に永年研究開発を続けた結果、ついに油不使用という手延べ素麺「一筋縄」を編み出した。江戸時代にほぼ完成された手延べ素麺技術から、誰も出来なかった300年目の技術革新であると勝山氏は語る。従来の手延べ製法を守って、油の塗布なしに麺を細く伸ばすことは不可能でした。勝山氏の油不使用素麺は、油の代わりに吉野本葛粉を塗布して、麺の乾燥を防ぐという独創的な製法技術から作られています。油を使わないから油の酸化臭がなくなり、小麦本来の旨みと香りが活きてくる。
<手延べ素麺体験 左、六代目山下勝山氏>
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素麺なんてどれも同じと思って一筋縄素麺を食べてみたが「なるほど、これは旨い」。
その他のおいしさの秘密を六代目に聞いてみた。「まず小麦のこだわりです」高級和菓子に使用する薄力粉の特別栽培小麦で、しかも小麦の芯の部分だけを使うという吟醸小麦使用のこだわりです。小麦の香りと旨みは薄力粉が最高にいいんです。しかし、反面この薄力粉ではグルテンが弱く、従来の製法では麺にならないのです。試行錯誤を重ねた結果、味のよい薄力粉でグルテンを引き出すことに成功しました。それは麺生地を幾重にも幾重にも折り重ねるという「練りの技術」で克服し、強いコシを引き出しました。油の代わりに使用する寒曝吉野本葛を惜しみなく使って、艶やかな透明感のある上品で、喉越しのよい素麺へと磨きをかけます。また、素麺の旨みを出すには麺生地の熟成が重要です。それには、良質の塩とミネラル豊富な水も欠かすことはできません。勝山氏は天日塩と三輪の里水を麦飯石で何度も濾過した水を使用して麺生地をつくりこむのです。
このようにして昔ながらの手延べ製法で伸ばした素麺は、昔ながらの冬の寒さの厳しい外気で乾燥させるのが一番です。しかし、三輪地方でも環境悪化で排ガスなどの空気汚染や河川の汚濁は避けられません。一筋縄も安心、安全を確保するために衛生管理を徹底した最新の工場生産になりました。けれども手延べ製法の伝統は頑固に守っています。冬の厳しい冷え込みを室内の温度管理と渓流に発生するイオンを含んだ空気を、二重、三重の防塵ろ過装置を経て取り込んで、やわらかい風を起こして、ゆっくり乾燥させるなど。昔ながらの三輪の環境を再現し、頑固に手延べ素麺づくりにこだわるという徹底ぶり。
「こんな素麺、見たことない」。六代目山下勝山氏の一筋縄素麺は名前の通り一筋縄では語れないおいしさがあります。
これぞ、「世界に誇れる奈良の味、三輪そうめんここにあり!」です。
江戸時代には三輪そうめんの他に久我そうめん・岡山そうめん・松山そうめん等、全国で11箇所の名物そうめんの産地があったと伝えられています。
素麺産地に必要なことは
@水のよいこと
A良質の小麦がとれること
B胡麻油、綿実油が得やすいこと
C冬の冷え込みが厳しく、乾燥に適していることであった。
このような条件に適した産地が三輪、播州、備中加茂川、小豆島、島原などであり、産地は西日本一帯に多く広がっている。生産分布は西高東低であり、関東の冷麦・関西の素麺という食文化を形成しているのである。
なかでも三輪は西日本随一の素麺の産地として生産量を誇っていた。
しかし、昨今の三輪素麺の生産量は播州の揖保の糸や島原そうめんにも追い越され、素麺製造技術や商品開発の面でも遅れをとっているのが現状のようである。今や素麺の産地といえば播州・揖保の糸というイメージが強く、三輪素麺のブランドは、だんだん薄れつつあるように感じるのは奈良県民としては悲しい限りである。
手延べ製法の素麺づくりの伝統文化は、後々まで継承して欲しいと思うし、山下勝山氏のように伝統を活かしながらの新しい創作麺づくりなど、現在の消費ニーズに合致した三輪素麺文化の創造も、新たな市場を創り上げるために大変重要である。
奈良に世界に誇れるうまいもの、新しい三輪そうめんで三輪が元気になり、三輪がその昔のように、「日本一の麺の里」といえる日を待ち望んでやまない。
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一筋縄そうめんは直売の他、工場見学や手延べ素麺体験道場も受け付けてくれる。
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