青葉の美しい五初旬、大和高原では平地より一足早く田植えが終わります。都祁村上深川で、大きなおにぎりを朴(ほお)の葉にくるんだ「ほがしわ弁当」を作ると聞き訪ねました。

村の氏神・八柱神社境内の資料館でお会いしたのは、この地で生まれ育って七十八年という福山善子さんと他四人の方々でした。あいさつもそこそこに持ってきてくださった「ほがしわ弁当」に目がいきました。

朴の葉にくるまれた十センチ四方のものを藁(わら)で十字に結んであり、持ち手がついています。
持ち上げるとブラブラゆれ、青葉の色がとても美しくかわいいものです。藁を外し開けてみると、十字に重なった朴の若葉は一枚の長さが約四十センチ、幅は二十センチもー。真ん中に削りぶしのしょうゆかけののった大きなおにぎりが入っており、甘くて香ばしい香りがしています。朴の木はこの山間部の田植えのころを見計らったように若葉を出し、この時期だけ香りが強いしょうです。

「炊きたてのご飯は熱いので、お茶碗の中でころころ転がしてテンコロにぎり(大きなおにぎり)を作り、朴の葉にのせると熱で一層香りが増して、ご飯に良い香りが移ります」と言いながら、妹の石橋きよのさんが実際に作って見せてくださいました。

この村では「結い」といって、お互いに助け合う習慣があり、田植えも機械化されるまではご近所助けあって行っていました。田植えの十時、三時の休憩に出す食事が「けんずい(間食)」で、どの家でもほがしわ弁当が出されます。

おにぎりにのせるものは、ひらごジャコ(光ったジャコで、昔は三重県の行商から買った)や削りガツオのしょうゆかけ、ヒダラ、フキの佃煮が主です。他には炒(い)り米、炒り豆を一緒に粉にしたものをまぶしたりもします。
各家庭で少しずつ違っていますが、福山さんの同級生・浦光子さんは「田植えの忙しい時期は学校から帰ったら、作り置きのほがしわ弁当を持って近くの行者山へ姉たちとよく遊びに行きました」と。
続けて「お箸(はし)はやまツツジの枝を折って使いましたね」とお姉さんの乾静子さんが懐かしそうに話してくださいました。

この地区では朴の葉がカシワの葉に似ていることから「カシワ弁当」と言いますが、一般的には朴の木の”朴”が頭について「ほがしわー」と呼ばれています。
村外から嫁いでこられた中奥善子さんは「村内でも朴の木の育つ所とそうでない所があり、この地区にはたくさんあるのです。私もお姑(しゅうとめ)さんが作ってくれたのを初めて食べた時、朴の葉の香りに感動しました」と思い出しておられました。
一時期、保育所でも若いお母さん方が子供たちを作っていたともお聞きしました。
この土地で、この時期にしか味わえない「ほがしわ弁当」。
この味と香りをぜひ後世に伝えてほしいと思います。「私たちは自然と一体で生きていますー」という言葉が心に残っています。


奈良の食文化研究会:大川 博美



ほがしわ弁当

<材料>(一個分)
・朴の若葉2枚
・炊き立てのご飯お茶碗に8分目
・削りぶしのしょうゆかけ少々
・チリメンジャコのしょうゆかけ少々
・フキの佃煮少々

<作り方>
@朴の葉2枚を十文字に重ねておく。
Aご飯を茶碗にいれ、ころころ回して丸くする。この時固くにぎらない。
B十字に重ねた朴の葉の真ん中にAを置き、上に削りぶしのしょうゆかけや、お好みの具をのせる。
CBの朴の葉を上下、左右交互に重ね、ふたをする。
DCを藁で十字にしばる。