世界の情勢が不安定な中、新たな年が明けました。さて木枯らしが吹く季節。温かい鍋物は何よりのごちそうですね。明日香村の「飛鳥鍋」をご紹介します。
飛鳥鍋は牛乳と鶏ガラベースの出し汁に鶏肉、季節の野菜、餅やうどんなどを煮込んだ鍋料理。
千三百年前、唐の使臣が今日の練乳によく似た乳製品を飛鳥の都に伝えました。当時は貴族の飲み物でしたが、僧侶たちも密かに飲んでおり、そのうち飼っていた鶏の肉を牛乳で煮ることを覚え食していたと思われます。
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飛鳥鍋(昔はそう呼んでいたかどうか)は農家で昔から食べられていました。また神武天皇祭(橿原神宮、4月3日)の時に郷里に戻る人たちにとっても、この鍋はまさに郷土の味。
地場産品の食品加工に取り組む藤本順子さんは「昔は自宅の庭先に飼っていた鶏の肉を、やはり飼っていたヤギの乳で煮ていたんですよ。旬の野菜と一緒にね。自給自足の時代でした。適当に脂もあっておいしかったですよ。でも1年に何度かのごちそうにはちがいありません。この鍋は先に食べた人も後の人も同じようにおいしく食べられるのがよいところですね。
一般に広まったのは昭和五十九年の若草国体の時からでしょうか」とのことでした。
味付けは各家でさまざま。味噌を入れる家、すき焼き風などもあるようですが、橿原観光ホテルの味が一般的のよう。同ホテルの飛鳥鍋の生みの親・故薮内増治郎氏の尽力を明日香村の薮内義三さんに伺いました。
「昭和の初期、近鉄の社長さんと橿原観光ホテルから明日香の名物を作ってとの依頼があり、当時村長だった父(増治郎氏)が、地域産業(牛乳、卵の生産)の発展を願って考案しました。
食糧難の時代で、牛乳はごく限られた人たちの食品でしたので」と話してくださいました。
歴史を感じさせる飛鳥鍋ですが食べ方は簡単。同ホテルの前田タヅ子さんは、出し汁が沸騰する直前に火を止め、ショウガの絞り汁と七味をいれて、まずスープを飲んでー、といいます。隠し味に醤油を少々。二日酔いにもいいそうです。
具が煮えたら溶き卵にくぐらせて食べます。口中で具と卵が混ざり合い、まろやかさとこくがあってリッチな気分でした。あっさり食べるなら卵ぬきでOK。和風クリーム煮といった雰囲気です。
同ホテルでは、こくと弾力が人気の大和肉鶏を使うのが特徴で昭和十五年の創業時から出しており、一人鍋(飛鳥御膳)も年中できると支配人の宮脇謹一さんは話しています。
また民宿でも食べられます。民宿・脇本の脇本澄子さんは「鶏の世話は主に子供の仕事。古米と糠を混ぜた餌で育て、絞める時はごめんなさいと心で詫びました」といい、最高のごちそうだったと聞きました。
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