山全体を錦に染めた木々も葉を落とし冬支度を始めています。奥宇陀・人口二千五百人の御杖村。
垂仁天皇の命を受け、天照大神をお祀りする所を探して旅をしていた倭姫が、候補地のしるしとして(御)杖を残したと伝えられる御杖神社があり、この伝承が村名の由来になっています。
この村の東、三重県との県境の神末地区で、まもなく迎える冬至の日に「カボチャのいとこねり」を食べると聞き、村発行の「御杖の四季と食事」の編集委員をされた竹村春子さんと倉田秀子さんを訪ねました。
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竹村さんは「明治のころでも食べていたようですよ。いとこねりは冬至の特別な食べ物です。この日、カボチャを食べると風邪をひかない、中風にかからないなどといわれていて、朝からカボチャと小豆を炊いてつぶし、いとこねりを作りました。相性がよく、体にいいもの同志、あんこのように砂糖で煮ます。
戦時中はサッカリンを使ったりしましたね。幼いころ、この日をどんなに楽しみにしていたか。甘いものが少なかった時代、子供にとっては本当にうれしい食べ物でした。今はおいしいものがいっぱいあるので、最近は作っていません。もう一度食べてみたい」と昔を懐かしんでおられました。
冬至に食べる意味には2つあります。カボチャや小豆は豊富に収穫され貴重な食材ですが、いくら日持ちがよくても冬至をすぎると傷みます。もうひとつはカボチャに含まれるビタミンA,C,カロチンなど風邪予防に必要な栄養素を補っていたようです。
倉田さんは「冬至の日は氏神様と仏様に供え、風邪をひかないように一日中いとこねりを食べていました。今後、保育所や小学校にも“御杖の味”を伝えていけたらうれしいです」と話しています。
伊勢まいりの旅人が行き交う宿場町・神末へいく途中の土屋原にホウレンソウのビニールハウスが並んでいます。道すがら出会った主婦は今もカボチャのいとこねりを作っていると聞き、ホッとしました。見上げると雲ひとつなく真っ青な空。水も空気も澄んで、ホウレンソウの味も一味違うだろうと思えました。
JAの近くで、神末文化祭に向けて柿の枝などで生け花の準備をしていた若い主婦二人は、カボチャのいとこねりは知ってはいるが食べることも忘れているといいます。笑顔がとても印象的でした。
他に出会った村人は食べたことのない人、昔は食べていたが今はもう食べないなど、さまざまでした。
いとこ煮とは野菜や豆腐などを硬くて煮えの遅いものから順に“追い追い”に煮ていく、また甥甥に似るとの洒落で、いとこ同士との名が生まれたと広辞苑に載っています。いとこ煮は他の地域でもありますが“いとこねりは”珍しいので早速作ってみました。好みで甘くしても美味です。介護食にもできそうですし、また茶巾絞りにするとおしゃれなおやつになります。
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