月が美しい季節になりました。日本人にとって月は友達のようなもの。寂しい時、落ち込んだ時、また、しみじみとした気分を味わいたい時など、月を見上げて心休めた方も多いことでしょう。
今年は十一日が中秋の名月。そこで斑鳩町と奈良市にお住まいの三人の方に五十年前に楽しんだお月見の記憶をたどっていただきました。どの方も心豊かに子供時代を過ごされたようです

年中行事は欠かさずされる富重千代子さんは小学生のころお母さんが「月がきれいやろ」と言ったことが印象に残っており、今は亡きお母さまとのその日の様子を思い出してくれました。
「お月見には縁側に庭に咲いているハギやススキ、ホトトギスなどを生け、直径三センチくらいのまん丸のお団子を十三個、生の里芋を皮をむいて十三個お皿に盛ります。それと洗い米を供えるの。月が昇ってきたらロウソクを灯して、お供えのお団子に砂糖をかけて食べました」 「そして浴衣を着て家族中で近くの富雄川へ行って目を洗ってもらうの。月夜の晩に目を洗うとよく見えるようになるといわれていたから。近所の人たちもたくさん行きました。昔は今では考えられないほど水がきれいだったんですよ」と話してくれました。

お供えは基本的に地面に埋まっているもので、生の里芋、サツマイモなど。他にはナスビやナシなど家で採れたものを供えていたそうです。またこの日は里芋とこんにゃく、厚揚げの炊いたもの、サンマの塩焼きを食べたということです。
お花の先生をしておられる樋口美千子さんの生家は天理市。
「お月見の日はハギとススキを生け、里芋の皮をむいて十三個、米粉を練って蒸したお団子を、これはまん丸ではなく平べったいお団子ですが、やはり十三個、洗い米、塩、お酒などをお供えしました。
翌日にはその団子を味噌(みそ)汁に入れたり、焼いてしょうゆをつけて、あるいはお茶漬けに入れて食べました」と、どんどん話が弾みました。

ちなみに「なぜ一升ビンに生けるんですか」と問うと「当時は花器といってもたいしたものはなかったのでは。で、手近にあるもので間に合わせてのでしょうね。口が細いのでまっすぐのススキと垂れるハギの取り合わせで生けやすいですから」とのコメントでした。
面白い風習を話してくれたのが大川博美さん。お月見のお供えは同じで団子は三方に盛り、東の縁側に飾ります。月が昇ってきたら、団子に砂糖やきなこをかけて食べるんですが、当時はどの家も同じように供えており、その日は誰が来ても食べてもよいことになっていて、子供たちは次々とよその家の団子を食べに行ったとか。子供時代のうきうきした気分が伝わってきました。

三人のお話では、昔のお団子に地域差は少ないようですね。今日市販の月見団子はあんこがついているのが主流ですが、当時はどこもあんこなし。やはり時代でしょうか。
巡る季節を家族そろって素朴に楽しむー。気ぜわしい現代ですが、ぜひとも蘇らせたいものです。
今年のお月見は“自家製”月見団子でゆったり過ごしてみませんか。


奈良の食文化研究会:芦原 美紀子・藤井 燿子



月見団子

<材料>
・だんご粉、米粉、もち粉などどれでも可

<作り方>
@団子粉250グラムを200ccのぬるま湯でよくこねる。この時湯は少しずついれる
Aよくこねた粉を13等分して丸める。まん丸でも平たくても好みで
B沸騰した湯に入れ、浮くまでゆでる。浮いたら冷水にとって冷やし、食べる時に砂糖やきなこを好みでかける。