「さつきごはん」というきれいな名に誘われ、花がさくのを待ちかねるように四月下旬五条市の生蓮寺をたずねた。 寺は、JR大和二見駅から西へ歩いて五分のところにあり、歴史も古く本尊地蔵菩薩は安産の仏様として信仰を集めている。

料理は、角取りした一枚桧(ひのき)板の上に、葉っぱを器にして品よく盛りつけられていて、箸(はし)置きにはかれんな「都忘れ」が添えてある。
二十年ほど前から、寺に来られた方々に食事を出すようになって始められたそうで、器を揃(そろ)えるのも大変だし、後かたづけのことも考えて葉っぱを使われたそうだが、葉っぱも料理の一部となり、みごとな演出になっている。環境にもやさしく時代の先どりともいえよう。

献立は写真右上から
一、精進揚げ、<青木の葉>
さつきの揚げものは、まだそこに咲いているかのように色が鮮やかに残り、食べてしまうのが惜しいほどだ。衣は花の裏につけるが、その時、花の先までしっかりつけるのがコツ。

二、吸い物
葛(くず)豆腐は白く墨流しのような模様がつき、あっさりしているのに油の味がして中に何が入っているのか見当もつかない。

三、酢の物<木蓮の葉>
いたどりは淡縁で歯ごたえと酢っぱさが残っている。

四、蒲焼き<割の竹、笹の葉>

五、ご飯<葉らん>

六、焚(た)き合わせ<紫陽花(あじさい)の葉>
わらびはがついているのに煮くずれがなくまさに春の味。

七、木の芽和え<桜の葉>

どの料理をいただいても素材の持ち味をいかしておいしく、やさしい味にあふれている。
丁寧に説明してくださる料理好きな奥さまの人柄がしのばれるようだ。箸袋も手作りで、よくみるとそれぞれ模様が違っていて趣がある。食事の後のお薄の一服と手作りの和菓子とともに、静かで心豊かな時を過ごした。


奈良の食文化研究会:佐藤 直美



変わり葛豆腐

<材料>(4人分)
・葛25グラム
・菜の花
・だし汁200ミリリットル
・わさび
・マヨネーズ大さじ1
・梅肉少々
・だし汁240ミリリットル
・うす口しょうゆ30ミリリットル
・みりん30ミリリットル


<作り方>
@鍋に葛とだし汁を入れてよく混ぜ、火にかけて透明になるまでしっかり練る
A@を火からおろしてマヨネーズと梅肉を混ぜ合わせたものを加え、マーブル状に混ぜこみ、流し缶に流し入れて冷やす
Bだし汁と調味料を合わせ、煮立て冷ます。菜の花は茹(ゆ)でておく
C器に葛豆腐を盛って3のだし汁をはり菜の花とわさびを添える。