「摘み菜」とはあまねく野の草木をいつくしみ、数少なくなってきている貴重な日本古来の草木を人間や外来種から守り育てながら、生育に支障のない程度の菜を摘み、調理して味を楽しむのである。
指先で摘むのが原則で、手で折れないものは硬くて食べられないし、自然保護のため絶対根こそぎには採らない。 一千種からの野草、有毒のものでなければうまいまずいの差はあるがどれでも食べることができる。ただ、それぞれには花、葉、茎、など食べどころと旬があり、うまく食べるにはいつ、どこでどのようになっているかを常々観察しておく必要がある。
橿原神宮前駅近く、私が十年来作っている畑の周辺では摘み菜の素材にはこと欠かない。フキノトウ、ツクシ、セリ、ヒメオドリコソウ、タネツケバナ、ベニバナボロギクなどなど。多彩でかなりの量が採取できるので四季折々楽しませてもらっている。

摘み菜料理にはそれを単品で、あるいは組み合わせて、基本的にはご飯、汁物、主菜、別菜、デザート、七福茶(摘み菜、薬草など)と会席風にコーディネートし、素材からは想像できない立派な膳を作ることができる。
私は素材中心の料理が好きなため、ほとんど単品で味わうことが多いが、ここでは、一般には珍しく今の時期手に入りやすく、食べてうまい何種類かの素材についてご紹介したい。ただ、私はその時々の思いつきで調理し、調味料等も適当なので、各ご家庭では、お口に合うよう工夫をこらせていただきたい。

西洋カラシナ(十二月ー五月)
甘橿の丘近くの飛鳥川の土手に数年前までは背丈を越すものが群生し、よく採りに行ったが、現在は土手の改修でなくなった。同じ明日香の祝戸など、あちこちでちょくちょく見かけることができる。橿原神宮前駅の傍(そば)の線路の土手には、現在も七ー八本が昔と変わらず生育している。
大きい葉は三十センチ以上にもなるが、刻んで水に浸し充分(じゅぶん)アクを抜いた後、豚肉とゴマ油で炒(いた)め、オイスターソースや味噌(みそ)やみりんなどであじを調える。

ウワバミソウ(四月ー十月)
通称ミズといっているが、奥吉野の大天井滝の滝壺(たきつぼ)の周りのミズは本当にみずみずしく、立派である。その他大野寺から室生寺へ行く途中で見かけたことがあるが、群生しているところは少ない。これも癖がなく、しゃきしゃきして、おひたし、味噌汁の具、まらずし(茎)、缶詰の魚肉との煮付け、卵とじなどいずれもうまい。

クズ(五月ー十一月)
どこにでもあるが、土手など最近は早く刈ってしまわれることが多く、若葉や花もだんだん採りづらくなった。 蔓(つる)の先の方の軟らかい若葉を小さく刻んで炒め、削りぶしとしょうゆで味を調え、これを炊きたてのご飯に混ぜて食べる。


また茹(ゆ)でてみじん切りにし、少量の塩でもみ、ご飯に混ぜても色がきれいでおいしい。 クズの花は房から外し、よく洗ってから三十秒程度茹で、梅酢に漬けると一時間程度で鮮やかな紅色に変わる。クズご飯のトッピングにしても美しくおいしい。

その他、奈良市内のレモンエゴマ(四月ー六月)、高取城跡のヤブカンゾウ(三月ー六月)また大宇陀のオランダガラシ(クレソン、通年)など奈良県内にもいろいろなおいしい摘み菜の素材を見つけることができる。この春はぜひ野に出て菜をつんでみよう。


奈良の食文化研究会:丸岡 洋二