「へえー?!面白い形!!何が入いっているの?」川上村に住む友人より頂いたお土産である。一つの枝から、たくさんの葉でくるまれた袋がぶら下がっている。袋を開けると中から小豆色のお餅(もち)が出てきた。ちょうど卵のような大きさである。食べてみると口の中に渋みが広がり、その渋みと中にくるまれた餡(あん)との調和が私にとっては初めての味わいだ。
お餅は毎週日曜日、川上村役場前で開かれる朝市で販売され、村の特産品が豊富に並ぶ。その中でもとりわけユニークな形で目をひくのがこのお餅。
村の味を守り続けているパクパク館(代表 井本初代さん)の女性グループの製品で、五・六月のみの販売となっている。残念ながら朝市も十二月〜三月まで季節的に休みとなり、来年までの楽しみとなってしまった。なぜこのような形をしているのか興味を持った私は、友人の紹介によりパクパク館の皆さんにお話をうかがった。

このお餅は『でんがら』(丸形)といい、端午の節句時にちまき(棒形)と一緒に男性のシンボルとして子孫繁栄・無事成長を願い現在に至り作られてきたそうだ。旧暦の端午の節句は現在の暦に換算すると六月七日にあたる。(吉野川沿いは六月一日である。)
現在作られるお餅は米粉と餅米粉が主であるが、昔はとうきびを粉砕したものが主であった。お餅の小豆色とあのなんともいえない渋みの正体はとうきびであったとは驚いた。どうりで始めての味のはずだ。私はとうきびを食べた事がない。
今ではとうきびの方が珍しくなったが、四方を山に囲まれた川上村では米を作る水田が一つも無く貴重な食料源であり、その代用としてたくさんのとうきびや粟などの雑穀を植えていた。
中のお餅は、米粉と餅米粉を混合した(8:2の割合)粉7に対し、とうきびを3の割合で混ぜ熱湯と塩で耳たぶの軟らかさにする。杵(きね)と臼(うす)でついた後、こし餡を包み、さっと熱湯で湯がいた朴(ほう)ノ葉でくるんだ後、丈夫な“しゅろ”で結ぶ。朴ノ葉に火を通すことによりなんともいえない良い香りがお餅を包みこむ。奈良盆地より気温が低い川上村では、ちょうど六月頃お餅をやさしく包む良い朴ノ葉ができる。

残念ながら『でんがら』の名前のいわれは井本さんたちにも明確ではない。それならば、と調べてみると東吉野村や三重県の飯南郡飯南町でも『でんがら』があった。
東吉野村は川上村と同じ節句時に作るが、飯南町の波瀬や森、川俣の方では、昔は野上がりにたいていの家で『でんがら』をつくったそうだ。 昔の野上がりはだいたい七月二日で、この日までにお茶や田植えなどの仕事を済ませみんなで休む日であった。野上がりには田(でん)が空(から)になるので『でんがら』といわれている。
川上村以外の『でんがら』はお餅が一つ一つ柿の葉ずしのように包まれている。袋状にぶら下がっているのは川上村だけだ。 飯南町や東吉野村にも『でんがら』があること、川上村のみ形が違うことを井本さんにお話すると、少し驚いた様子で次のように話された。
「私が物心ついたときには保存食であった『でんがら』とちまきは家の柱にぶら下げてありました。この方が風通しもよく、長持ちもする。もしかしたら川上村も一つずつ包んだお餅であったのを、昔の人の知恵によりぶら下げる形に変えてしまったのかもしれませんね。」
進化(?)をとげながら『でんがら』は、母から子へ、姑(しゅうとめ)から嫁へと代々伝わり作られてきた。しかし大滝ダムが間もなく完成する今、川上村の五百世帯が水没し、村の環境は大きく変わり過疎化が進んでいる。『でんがら』の伝統もいつか途絶えるであろうと話される井本さん達の表情は寂しい。

私はでんがら餅の作り方を教わりながら先人たちの食物の知恵・工夫・苦労を知り、また米が不足の時代に子供達においしいものを食べさせてあげたいという家族の愛情を感じた。
早速作ってみたが、私の作品は味・形とも決して褒めてもらえる出来栄えではなかった。しかし味はどうあれ、伝統は継続されてこそ文化になるのではないだろうか。
昔は家庭により味・形もちがっていただろう。そして子供は成長しながら家庭の味を通じて食文化の歴史を知り、親の愛情を知る。 今、私の年代は結婚をして、子育てに入ろうとしている。食について興味をもつ友人は決して多いとはいえない。
家庭に伝わる伝統料理はありますか?飽食の時代、子供と一緒に大切な食事とはどのようなものか考えてみましょう。


奈良の食文化研究会:秦 祐子



でんがら

<材料>(14〜15個分)
1個あたり:生地60グラム・餡40グラム
・唐きび(唐きびの粉)500グラム
・餅米粉(上新粉)250グラム
・塩少々
・あん(漉しあん)小豆1.5カップ
・砂糖 300グラム
・好みで朴ノ葉
・熱湯約3カップ
・しゅろの葉ひも用


<作り方>
@唐きびは寒の間に、熱湯をかけ約2日アク抜きをし、良く乾燥したものを粉にしておく(雑穀屋で販売しているところもある)
A餅を搗く2、3日前に朴ノ葉を取り、熱湯で5〜7分ゆがく。(葉は枝から切り離さない)ゆがいた朴ノ葉を流水に浸しアクを抜く。一晩アクを抜いた後、日陰に吊るす
B「しゅろ」は前もってよく炊き、軟らかくして、細く割く
C唐きび粉に餅米粉をまぜ、塩少々を入れた熱湯で耳たぶぐらいの大きさによく練る
Dねった粉を手の平程度の大きさにのばし、中にあんをいれ小判形にまとめる
E朴ノ葉に包み、「しゅろ」のひもをかけ、たっぷりの湯で茹がく朴ノ香りが餅を包みこむ。(朴ノ葉の香りが伝統の母の味である。)