今年はいつもより早い桜の開花で長く桜を楽しむことができました。
さて街の桜が春風に舞い終わったころ、近鉄奈良駅から特急で約一時間の、吉野山の桜が見ごろを迎えます。四月上旬から、下(しも)・中(なか)・上(かみ)・奥の千本と、花期をずらして順に咲きのぼります。尾根から谷をうめつくすシロヤマザクラは、若葉と同時に開花するので、凛(りん)とした気品が感じられ、山道を歩いていると別世界へと導かれてしまいます。

お土産物屋さんの店先には、花の入った「くずもち」や「ようかん」と共に「花の塩づけ」が売られていました。お湯をそそいで桜湯にしていただくと、独特の香気(クマリンという成分)が一層春を感じさせてくれます。 早速に「塩づけ」を作っておられる所を訪問してみようと、吉野町役場の文化観光商工課にたずねてみました。郷土史家の先生に問い合わせたり、皆さん色々と調べてくださったのですが、今は作っておられる家はないとのことでした。
千三百年の昔より、吉野山は信仰の場として崇(あが)められ、桜はご神木なのだそうです。 「枝を一本折ると腕を一本折られる。花をひとつ取っても指を折られると、言われるくらい大切にしているので、吉野の人は花をとりませんからね」との言葉に納得しました。 でも何十年か前には、庭先の花を摘み、自分の家用に作っていた時代はあったようです。 今は"まぼろし"になってしまった「塩づけ」を再現してみたく思い、学校法人・若羽学園(奈良市西木辻町)理事長・田中敏子さんに作り方を教えていただきました。

(一)花は八重桜の三分咲きか五分咲きを摘みとり、ザルに入れてすすぎ洗いをし、日陰で二−三時間干して水気をきる。

(二)花の重さの約20%の塩をふり、落とし蓋(ふた)をして軽く重石をし、二−三日で水が上がってくるとザルにあげて水気をきる。

(三)これを白梅酢につけ、落とし蓋をして軽く重石をしておく。(白梅酢の代わりに酢三分の二カップ、水三分の一カップ、塩大さじ五杯を合わせたものを用いてもよい)

(四)一週間ほどしたら平ザルに取り出して、一昼夜陰干しにした後に、塩を十分にまぶしガラス瓶に入れて保存する。出来上がりまでに一年かかり(夏に少し発酵させ、寒に戻す)ひと冬越させた方が良いようです。

重桜が手に入る方は、ぜひ作ってみてください。
使い方は、ごはんにのせて熱湯をかければ桜茶漬け、またお椀(わん)に浮かせたり、おこわやすし飯にまぜたり、茶碗蒸しに入れたり…いずれも最後に入れるのが、香りも彩りも生かすコツです。
お酒に浮かべた花をめでつつ、誰もが持っている桜へのおもいの中に、ひととき身を置いてみてはいかがでしょうか。


奈良の食文化研究会:大川 博美



桜ごはん

<材料>(4〜5人分)
・米3カップ
・水3 1/3カップ
・桜の花の塩づけ20グラム
・食紅少々

<作り方>
@米は洗ってザルにあげ30分おく
A食紅を少々入れた水3 1/3カップに桜の塩づけを入れて塩出しをする(塩味と香りがでる)
B塩出し後飾り用の分を少しとり塩出しした水の中に1のお米を入れて普通に炊く
C炊き上がったごはんに飾り用にとり置きの桜花を上にちらして出来上がり