「昔、おくもじと言って、おかいさんに添えて食べていたんですよ。塩漬けにするとハクサイよりも甘味があり、すっぱくなってもおいしかったですね」と答えてくれたのは、道の駅「阿騎野新鮮野菜直売所」の伊藤澄子さんです。 “幻の野菜”といわれる大和マナを求めて大宇陀を訪ねました。

「大和マナ」は大和特産の在来品種でハクサイやコマツナと同じアブラナ科に属す漬菜の種類。
その中で最も原始型に近い品目です。外観上はダイコンの葉に似た翼葉がみられ、同じ漬菜類のコマツナやシロナと比べると荒々しい外観を与えます。

収穫は十一月中旬から二月中旬ごろまで。おひたしにしても、煮炊きや漬け物にしても、独特のまろやかさと歯触りがあります。霜や寒気にあうと一段とよくなり、独特のうま味と柔らかさが加わってくる奈良県特産の伝統的野菜です。

土壌湿度の高く朝露の多い土地柄が良品生産の条件と言い、水田転換畑や朝晩の冷え込みのきびしい山間部が栽培の適地ということで、特に宇陀地方で栽培されていたそうです。
特徴は作寸適期である十月中旬以降は、雑草の発芽がほとんどないため、除草剤や殺虫殺菌剤に依存しないで、食品の安全性を最優先した栽培ができる無農薬野菜であるところです。
ところが、残念なことに私たちの身近なところでは販売されていません。以前、県が産地育成を図ったこともあったのですが、卸売市場や、小売店などの流通機構を経由している間に、葉が黄色くなってしまうといった問題があり、農家の家庭菜園だけで作られる、いわば“幻の野菜”になってしまいました。

以来、高原農業復興センターが厳重に管理しながらつくった種を、限定された農家が譲り受けて栽培に挑戦。平成十年から道の駅に設けられた直売所で新鮮な状態で直接購入できるようになりました。
「お浸し」や「油揚げといっしょにたいたり」といったところが定番ですが、私は、直売所で働く方々に教わった「大和マナと豚肉のからし酢みそあえ」と「塩茹(ゆ)でした大和マナの菜飯」を早々に家で作ってみたところ大変おいしくいただけました。
それ以後、この時期に買いに行くのが楽しみになりました。“幻”から現実へ―。大和マナは着実に地域に根付いているようです。


奈良の食文化研究会:岡山 日出男



大和マナと豚肉のからし酢みそあえ

<材料>(4人前)
・大和マナ2束400グラム(茹でて水きりしたものなら250グラム)
・薄切り豚肉(なんでも可)100−150グラム程度
・みそ適量
・砂糖適量
・酢適量
・からし少々


<作り方>
@マナは塩茹でし、冷水でさまし3センチくらいに切っておく
A豚肉は食べやすい大きさに切って、茹でるか、うすく好みの下味をつけておく
Bみそ、砂糖、酢、からしでからし酢みそを作り、1、と2、をあえる
C小鉢に2切れづつとりわけ、田楽味噌(市販のものでも良い)甘みを控えたものをかけ、好みに合わせて芥子のみ、炒り胡麻などをかけて暖かいうちにいただく。