柿は古来から、日本人に最も親しまれてきた果実です。
生菓、干し柿としては、貴重な甘味食品であり、渋は染料、漢方薬などに、へたは漢方薬、葉は容器、包みものとして幅広く利用されてきました。
また、柿の葉には、百グラム中レモンの十四−十八倍にあたる六百−八百グラムのビタミンCを含有しているといわれ、とくに六月から八月までの間が、ビタミンCの最も豊富な時期とされています。

身長は一五八センチ、体重八〇キロの肥りすぎで、医者に「成人病の見本市みたいな人」とまで言われた人が、自宅の庭に、五十センチくらいの小さな柿の木を何十本も植え、柿の葉を天ぷらにして食べたり、春から夏にかけての若葉を生のまま、木から採ったらすぐ水洗いして、刻まずにそのまま一日あたり、五−六枚ずつ食べることにより、成人病を克服されたと手記に書いておられます。
まさに柿の葉は、「成人病の特効薬」といえるでしょう。
また、すでに奈良時代には、正月に神前へ鏡餅(もち)を供えるならわしがあったとされ、よく知られるように、現在ではこの鏡餅に干し柿や栗(くり)などが添えられています。

本来、鏡餅は神に捧(ささ)げる食物であり、その形は、心−魂の表れとみられています。これに干し柿が添えられるようになったのは、柿が貴重なあまり神聖視されたからでしょうか。
神との共食を喜び、五穀の豊作や幸福、健康の祈願をこめて、鏡餅とともに供えられたものと思われます。 現在の伝承によると、「柿は福をかき集め栗はくり回しをよくし、橙(だいだい)は代々不老長寿の印」とされています。
また、関西地方では、「串(くし)柿」(一串十個)を鏡餅の上に飾るが、「外はにこにこ内むつまじく」で十個なのだといいならわしております。

ここ奈良県内では、嫁入りにさいして柿の苗木を持参し、死んだ時は、その柿の木で火葬するという風習がみられたように、人々の暮らしのなかで、柿の豊作を祈り、その豊産性にあやかろうとした風俗が伝承されてきたことからも、柿と人々との深いかかわりが、うかがわれることができます。

「色は黒いかが味みておくれ、味は大和のつるし柿」と昔から言われたように、五条、西吉野地方では、国営パイロット事業として、柿などの栽培が盛んに行われ、現在、奈良県産の柿のシェアは、平成十二年度では、出荷量ペースで、全国の11−12%を占める割合です。

今回は、この特産の柿を使った「柿の風呂(ふろ)吹き」を紹介させていただきます。
「柿の風呂吹き」の由来は、私の推察ですが、先人が「大根の風呂吹き」をまねて、柿の実で作ったのが、始まりかも?


奈良の食文化研究会:田中 義人



柿風呂吹き

<材料>
Aの材料
・富有柿2個
・白みそ100グラム
・砂糖15グラム
・みりん15cc
・白だし15cc
・卵黄1コ

Bの材料
・玉子みそ50グラム
・赤だしみそ50グラム
・当たりごま50グラム
・砂糖15グラム
・塩1つまみ
・みりん80cc
・料理酒40cc

<作り方>
@まず、かつおと出し昆布で白だしをとる。水500ccに出し昆布10センチ角1枚を入れ、沸騰寸前に花かつお20グラムと塩1つまみを入れ、こし器でこし、白だしをとる。次に玉子みそをつくる。
AAの分量の材料をボウルに入れ、湯せんしながら、泡立て器でかきまぜ、温まったら火を止める。
B次に風呂吹きみそを作る。Bの材料をボウルに入れて2.と同様に湯せんする。
C色、形の良い富有柿にへたの方を厚めに切りとり身の方の皮をむき、種子を取り除き、食べやすい大きさに切った柿をボウルに入れ、料理酒を少々ふりかけて柔らかくなるまで、約10分ほど蒸し器で蒸す。
D蒸し上がった柿を器に入れ3.の風呂吹きみそをかけ、けしの実をふりかけ厚いうちに食べる。