国道25号今国府の交差点を北へ2キロ、大和郡山市池之内町へ着くと、青臭さと甘酸っぱさの混じったなつかしい香りが漂ってきた。
イチジク栽培のハウスからだ。
この地区では17軒が取り組み、ご自身は7反(600本以上)を栽培しているという池之内イチジク出荷組合長の奥田利一さんを訪ねた。
「なぜここでイチジクなんですか」の問いに、「昔、明治の初めごろですが、ここは養鶏が盛んだったんです。鶏糞が豊富にあり、イチジクがこの土地に合っていたのと、
あまり日持ちしないので輸入できなかったんですよ。幸いでした」と奥田さんは答えてくれた。
イチジク(クワ科イチジク属)はアラビア地方が原産。日本には江戸時代の初期に伝わった。
今は各家庭から姿を消したが、昔はたいていどの家庭の庭にも
植えられていて、身近で楽しめる果物だった。無花果と書くが、外側から花が見えないからで内側に無数の白い小花がある。
旬は6月から10月中旬と長い。6〜7月ごろに出るものはハウス栽培が主で、さっぱりして上品な食感で料理に向く。露地(ハウスでも陽光に当てたもの)
栽培の完熟ものは果肉がギュッとつまっていて糖度が再興で17度にも。蜜のようにとろーっとした甘味とこく。なのに後口さわやかだ。
従来のイチジクのイメージをくつがえす。
世界で唯一、日本だけで栽培されている「桝井ドーフィン」という品種だそうだ。つるりとした喉越しが快感で、
食べ比べているうちに1個120グラムもあるものが4個もなくなった。主に京阪神に出荷する“大和特産”のイチジクは特に京都の料亭で料理に使われ好評とか。
なるほどスーパーで見かけないはずだ。てんぷら、葛のあんかけ、赤ワイン煮など料理法も多様だ。プロの手にかかると付加価値が大きくなると感心した。
生産者は自家用にジャムやゼリーを作っている。
奥田さんだけでも期間中に2キロ入りを1万ケースも出荷するという。「朝5時から作業を始めます。実に陽が当たって熱くなると傷むから大忙しです」と奥さんの正子さん。
最盛期はお盆ごろ。このごろだとスーパーの店頭に1パック(5個)300円くらいで並ぶ。また現地で直接販売もしている。
収穫までにはせん定、藁敷き、摘芽などの作業が続く。骨粉、ナタネ滓、綿実滓などの有機肥料をやり、“天敵”のカミキリムシを根気よく排除しながらの栽培。
こうした日々の努力で“特産品”が生まれる。イチジクは日本では薬の木と呼ばれ、生食、乾燥葉のせんじ液、白乳液と幅広く利用されてきた。
食物繊維が多く、高血圧、健胃整腸、婦人病、痔やいぼ取りですでにおなじみの方も多いはず。
ポリフェノールやエストロゲン(更年期障害の解消に役立つ)に似た成分も含まれている。体がだるくなる時期だ。この夏は大和のイチジクをたっぷり食べて体調を整えてはいかがか。
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