生駒市の北端にある高山は”茶筅の里”として知られている。
茶筅が誕生したのは、今から5百年以上も昔。高山城主鷹山頼栄の二男、宗砌が親友の茶の湯の創始者、村田珠光に依頼されて作ったのが始まりとのとである。そんな先人の知恵とこころが息づいているところが高山。
山あいをこりのぼりがあちら、こちらと泳いでいる。この季節、六つの集落からなる高山では、「男の節句」に「婿ちまき」を作る習慣があると聞き、高山のほぼ中央にある”高山庄田”の尾山さんのお宅におじゃましました。
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茅葺(かやぶ)きの屋根、黒く光った太い柱や梁(はり)のお宅の中は、外気の汗ばむ気温に比べ、ひんやりとしている。台所からは、何か昔にタイムスリップしたような香りと湯けむりに不思議な気持ちになる。
五十年余りも前の祖母のことを思い出していた。
湯けむりの中で奥様にお聞きした。男の子の初めての節句に嫁の里から「こいのぼり」を贈る。
そのお祝い返しに「ちまき」を作るため、「婿ちまき」と言うのだそうである。
「婿ちまき」の作り方はもち米七割、うるち米三割を混ぜて水車のヒキヤさんで粉にしてもらう。
湯で練って、塩少しで味つけをする。それを熱湯にくぐらせたアセ(葺)の葉五枚を寄せたものの上に置いて、
上を大きく下は小さく、棒の形にして巻き上げる。そしてイグサでそうようにして縛る。祝いものであるから、
イグザの花を飾るようにしてちまきの頭にもってくる。
アセの葉、イグサで巻くと甘みが増すと言われるため、普段からイグサを探すように心がけているとのことである。
大きい鍋(なべ)で熱湯を沸かし、ちまきを茹(ゆ)でる。
五本ずつ上、下二段にし、十本ずつ、縄の根元で
男むすびにし一束にする。二束を一ゼンと言い、縄の穂先を二つに下げられるようにして結び、お祝い返しにすると言う。
ちまきは保存食で堅くなっても、炊きたてのご飯の中に入れておくと、作ったときのように柔らかくなる。
お話を聞きながら、出来上がってきた「婿ちまき」の緑の濃さに暖かい春がきたような喜びを感じ、
三升の重の中に納まった美しさに感動してしまう。
人と自然と文化が溶け合い、心豊かな谷あいの村で、歴史を守り育てて次の世代へとつないでいく誇りと喜びを感じている
”温かい人柄のご夫婦”に出会ったことは、私にとってこの上ない喜びである。
野山の草花に囲まれ静かに暮らし、祖母や母から受け継いだ味を娘たちへ伝える。
その家の味は、家族の絆(きずな)であり、自分がこの世に存在したあかしでもあるのではないだろうか。
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