奈良盆地の中央に位置する田原本町は、国道24号を1歩東へ入ると、車の喧燥とした音はなく、三輪山を見渡せる広々とした田園が一面に広がっている。
ここ奈良盆地は古代から農耕文化が栄え、近くには弥生時代の農耕集落である唐古・鍵遺跡がある。その少し南にあたる坂手北地区も環濠集落としての名残を残す集落であり、
大和棟の住宅や江戸時代から続く築200年を越す家々が軒を連ねている。
明治のころまで、坂手付近には舟津があり、大阪からの物資が運び込まれていたという。
大阪に近いことから、野菜や商品作物の需要があり、田と畑を一定の周期で輪換して使う方法が編み出され、米の高収量を実現した。
この地区の堀内さんを訪ね、お話を伺った。農作物の豊かなこの地区では、とっきょり(晴れの日)には、餅をつく。正月のために暮れには家族総出で餅をつく。正月の供え餅、
丸餅の他、1年分のほうせき(おやつ)に食べるかきもち、どやもち、ねこもち(小米餅)をつく。
かきもちは、のしもちを薄く切り、わらで編んで、風に当てぬように、おいえ(部屋)の天井につるしたそうである。今も太い梁の間に当時の竹竿が置いてある。
どやもちは、うるち米と餅米を一緒に蒸してついたもので、うるち米はつぶれず、そのまま残るのでぶつぶつとした触感がある。
ねこもち(小米餅)は、うるち米の小米(脱穀・選別した時に出るくず米で、主に粉にして使うことが多い)を使う。
ついた餅は、のしもちにする。どやもちほどぶつぶつとした触感はなく、口当たりがよくて、餅ほど粘りがないので歯切れがよい。焼いてしょうゆにつけて食べるととてもおいしい。
冬の寒い日や体調の悪いときに食べる「おみ」は、体を温め、胃腸に優しいおじやである。
米、どろ芋(小芋)、だいこ(大根)、人参などの野菜、そうめん、団子(小麦粉を練ったもの)を入れて
薄い味噌味を付ける。季節によりカボチャやサツマイモを入れることもある。また、茶粥もよく食べる。この地域では、米1に対して7倍の水とほうじ茶の粉茶を袋に入れて炊く。
さらさらのおかいさんで、はったい粉(裸麦を煎って粉にしたもの)を入れて、どろっとさせて食べる風習もある。
小米餅やおみ、茶粥は、米を十分に食べられなかった時の腹を膨らます食べ物というだけではない。おみは残りご飯とみそ汁を利用することもあり、農繁期の忙しい時の昼食や
朝・昼のけんずい(間食)としても食べられた。時間のない時にさらさらと早く食べられるものであり、また、苦労して自分たちの土地で作った作物を捨てることなく、すべてを利用して
おいしく食べる知恵と工夫が、受け継がれてきたものである。物が豊かにありすぎて、ありがたみを感じることなく多くの食べ物が捨てられている昨今、反省しながらいただいたおみは、
作ってくださった方の温かい心にもふれて、さらに温かかった。
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