奈良漬を求めて奈良市の市中を歩いてきた。さすが奈良の代表的土産。店も多い。
「たまには普段と違うものを食べたくてー」と6?歳の主婦(生駒市)「おばあちゃんのお土産に。
地味なお漬物(分かります)より奈良漬が好き」と答える19歳のお嬢さん(岡山市)
意外と人気なのに驚いた。
奈良漬は1200年も昔、奈良のえらいお坊さんが、庭にできたウリを汁かすの中に漬けたのが始まりと伝わる。当時、奈良は銘酒どころであり、といっても今でいう「どぶろく」で、
人々は上澄みを飲み、分離した澱(かす)に蔬菜類を漬けたと、ものの本にある。
平安時代の宮廷儀式作法を記した「延喜式」にも、ウリやナスを漬けた記事がある。一般に普及したのは慶長年間のころ。「東大寺に参拝する人々に土産品として売出されたので庶民に広まった」
と東大寺南大門前の森奈良漬店専務・森茂さんが話してくれた。
9月のある日、同店の作業場を訪ねた。贈答品洋の作業が始まっていた。
「冬は酒かすが冷たくてー。でもおかげで手はつるつるです」と、にこやかに応答する従業員さん。
数度の漬け替えで、べっ甲色になったウリは、新調の酒かすをまとい樽の中に行儀よく並んでいく。
四斗樽はほどなく満杯。密封されて食庫へ向う。奈良漬は、かすと素材と塩だけで作る。
「2月下旬から3月は、かすの踏み込みで足腰はくたくた。十分に踏み込んで空気の層を緻密にし、1年も寝かしてやっと出来上がります」と今西本店の社長・
今西泰宏さんは苦労を明かす。
素材のほうは、「昔は奈良坂や、奈良の南部の方にウリなどの産地があった。しかし連作ができない上、広い土地が要るので作れなくなった」と森専務。
今は徳島(ウリ、キュウリ、ナスビなど)、和歌山、岡山など各地から集めている。こうした材料は塩漬けの後、下漬け、中漬け、上漬け、本漬け(最終)と一定期間をおいて繰り返し漬け替えられる。
この間に脱塩、脱水され、代わりに酒の風味を染み込ませていくのである。漬ける期間は店によって違う。
シンプルなだけに店独特の味が出る。「どれだけ水分が抜けるか、これが味の差」と今西社長は力説する。同店では短くても3年〜5年、ヒョウタンは、あくが強いので10年くらい漬けるという。
かすだけに漬けたものは、ほんとにわずかな甘さ。切って2日くらいおいてから食べると、おいしくいただける。
自然のものを相手に、こだわりを持って老舗は奮闘する。“奈良”の奈良漬がいつまでも健在であるように、みんなで伝え続けたいと思った。
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