30年間、奈良に移り住んだ時、水と地場野菜−とりわけ大和芋のおいしさに感動した。
見かけは黒くゴツゴツにているけれど、でこぼこが少なく皮むきが薬で料理もしやすい。
摺りおろすと、きめの細かさ、粘りの強さに驚く、アクも少なくて何とも上品な味。
大和芋は、中国南部から朝鮮を経て日本に伝わったといわれ、正倉院の文書にも見られる歴史の古い食材であるが、今、奈良で栽培されている多くは、 明治の中ごろ、大和の配置売薬家が丹波から種芋を持ち帰って植えられたともいわれている。

7月、産地の御所市櫛羅に、代々大和芋作りをしておられる池上文夫さんを訪ねた。
葛城山麓の風土ー特に砂地ーが広がった田だが、3月上旬の土作りから秋の収穫まで、手間ひまかけて育てられる、中でも施肥と灌水の加減は難しく、化学肥料をやると芋が急激に成長し、 形も味もまずくなるが、骨粉、血粉(牛などの)、油粕などの有機肥料でじっくり育てると、形もまんべんに太りのよいものができる。夏場は4〜5日おきに畝の間の溝の深さの3分の1くらいまで 溜まるほどに水をやる。肥料も水も、多すぎても不足しても良い芋にはならない。また、連作を嫌い、畑は少なくとも1〜2年、出来れば5年空けると上質の芋がとれるとのこと。 大和芋がちょっと高価なのも頷けた。
手間も経費もかかるので、最近は作り手が高齢化し、後継者不足と伺い案じられたが、「技術指導などをして質も生産高も低下させないように努力している」 (県中部農林振興事務所)と聞いて、少しほっとした。

池上さんの芋畑を見せていただくと、猛暑続きの午後だったのに青々艶々とした芋づるが支柱に支えられ、見事に育っていた。ご丹精のほどが察せられた。
この葉が紅葉しきる10〜11月に収穫される。葉の青いうちに掘ると、アクが出たり腐りやすくなるそうだ。
3月までは土に埋めて、春以降は保冷庫で保存され、和菓子材料や、そばのつなぎなどとして周年出荷される。最近は、屑芋を利用して粉にし「山芋パウダー」として販売も。

大和芋は、ジアスターゼが多く消化助け、カリウム(塩分排出を促し、生活習慣病を予防)に富み、ネバネバにはムチン、マンナンが豊富で元気にしてくれる優れた食材。
この大和の誇れる味を、家庭の食卓にももっと載せてはいかがでしょうか。


奈良の食文化研究会:山崎 八重



大和芋のおろし蒸し

<材料>(4人分)
・大和芋300グラム
・酢適量
・A(卵白1個分、塩小さじ1/4、みりん小さじ2)
・むきエビ12尾

・B(うすくちしょうゆ小さじ1/2、酒小さじ1/2)
・C(塩少々、酒大さじ1)
・シメジ100グラム
・ギンナン12個
・D(だし汁2カップ、塩小さじ1/4、うすくちしょうゆ小さじ2、みりん小さじ1)
・かたくり粉、水大さじ1
・ミツバ少々

<作り方>
@大和芋は厚い目に皮をむき、酢水につけて、アクを抜いてから水気をふきとり、すりおろし、すりこぎで滑らかにすり、Aを加えてよくすり混ぜる
Aむきエビは背わたを取って、Bをふる
B白身魚は4等分に切り、CをふるA、B共に約10分置く
Cシメジは小房に分け、さっと洗い、ギンナンは殻をむいて塩ゆでし、薄皮をむく
D@を4等分し、A、B、Cをそれぞれ4等分して加え、さっくり混ぜ合わせ、蒸し茶碗にこんもり入れ、蒸気の上がった蒸し器に入れて約10分ほど蒸す
E鍋にDを入れてひと煮し、水どきかたくり粉でとろみをつけ、Dにかけ、ミツバを添えていただく