奈良の名産として全国に知れ渡るようになった柿の葉ずしですが、いつごろ生まれたのかはっきりとした資料はありません。 由来として伝承されているのは、大和国中(くんなか)の南、山深い吉野地方から紀州へ木材等の行商に出かけた折、塩漬けした鯖を持ち帰り、 また、紀州の漁師が行商に来て渋柿(貝殻等の魚網への付着防止)とも物々交換に持ってきたそれを、そぎ切りにして1口大に握られたおにぎりの上にのせ、 1つずつ柿の葉で包み、桶の中に詰め込み、上に蓋をして重石をのせ3日程度寝かせた後食べ、残ったものは重石をのせ何日間にもわたって食べたというものでした。

当時のものは今の柿の葉ずしと違って、ごはんが糸をひいた状態で酸味が生まれたもの、すなわち乳酸発酵による慣れずしだったようです。ともかき、熊野産の鯖は貴重なタンパク源だったようです。
さて、柿の葉ずしのルーツを辿って、五條から十津川、熊野へ向って国道168号線を車で南下し、西吉野村の「かじや旅館」を訪ね、ご主人、おかみさんにお話を伺いました。

お2人の子供の頃はそれぞれのご家庭で作られていて夏祭りのごちそうだったようです。
大きな桶にいっぱい詰め込んで食べる分だけ順に出して何日間も食べたそうです。

当時は、鯖は塩をきかせていたので保存食として数日間は大丈夫だったとか。 今は、塩がきいた鯖や押しが強いのもより、鯖もごはんもソフトなものが好まれるとか。
宅配便で届いた時(1日)ちょうどおいしいように、作る時間を調整しているとのことでした。
馴染みのお客さんや口コミで紹介いただいたお客さんの注文分しか作っていないとのことで、 お伺いしたときちょうど、注文分をほんのりとした新葉に手際よく巻かれているところでした。
ちょっと早めですが、といただいた柿の葉ずしは鯖の塩が少し残る程度。1日だけではまろやかな味に なじんでいると手土産にいただき微妙な味の変化を予感しながら、柿の木が山あいに1面に広がる吉野から大和国中へ家路につきました。

柿の葉ずしも食文化として継承される中、白ごはんを発酵させた慣れずし(乳酸発酵)から、白ご飯にお酢(酢酸)を加えた押しずしに変わってきました。
そして、鯖もごはんもソフトなもの(鯖は塩分を減らし酢にあて、調味液につけ、押しは軽く)に変わってきています。葉っぱにくるんだだけのにぎりずしになってしまえば、押しずしの味の肝である鯖の塩分とごはんの酢が調和した 状態(ええ塩梅=あんばい)で食べる食文化が失われていくのでは、という危惧をいだくのは私だけでしょうか。

柿の葉のほんのり香しい素朴な味わいと、適度な塩でしめた鯖(塩)と酢飯の慣れ具合(ええ塩梅)で食べる味として、継承していきたいものだと思いました。


奈良の食文化研究会:入口 俊彦



柿の葉ずし

<材料>(30〜35個分)
・米3合(420グラム)
・水550〜580cc
・酒少々
・昆布10センチ角
・合わせ酢120cc(米酢90cc、砂糖90グラム、塩5グラム)
・生鯖1匹
・塩、酢適宣
・三杯酢(酢カップ1/2、砂糖大さじ2、うすくちしょうゆ大さじ1)
・柿の葉(若葉)30〜35枚

<作り方>
@生鯖を三枚におろし最低4時間程度塩〆し、余分な水分を取り除き、その後水洗いをしたものを調合酢(酢、塩、砂糖、昆布)に漬け、冷蔵庫で1日なじませておく。鯖は漬け込む前に中骨を抜いておく
A米は炊飯する1時間前に洗米をして水につけておく
B合わせ酢は分量をいれてかくはんしておく
C炊飯時の加水は通常炊飯する量より若干少なめ
D炊き上がった後最低20分蒸らし、炊飯器の中へ直接酢をうち、全体にまぜて1〜2分蓋をしておく。酢飯を冷却して濡れフキンで包んでおく
E鯖は表面の薄皮を頭のほうからひき、斜めにスライスする
F1個あたりの酢飯の分量を35グラムとする
G酢飯にスライスした鯖の切り身をのせ、柿の葉の中央におく。葉先のほうから包み両端を折り曲げ、容器に隙間なく詰めていく
H詰め込んだすしに落とし蓋をし、約2〜3キロの重石をして、涼しい場所で1日保管する