日1日と夏の暑さに1歩ずつ近づく日々。ふと初めて食べた葛切りの独特なあの間食を思い出し、大宇陀町へ足を運んだ。
奈良市内から近鉄電車で約1時間。榛原駅で降りて大宇陀行きのバスで30分。バスを降りると、目の前に道の駅がありお土産やその土地でとれた野菜やこんにゃくを売っている。
道の駅から5分も歩かない所に目的地である森野旧薬園がある。

ここはわが国唯一の薬園でもあり、創業以来、400年近く吉野葛本舗でもある。 元々は現在の吉野郡下市町で葛粉の製造を始めていたが、元和2年に葛晒しに絶対欠かすことのできない良質の水を求めてこの大宇陀の地で葛粉の本格的な製造を始め、今日まで続いているのである。

ここでの葛粉の西方は昔からの自然製法を厳守している。
毎年11月より翌年の4月ごろまでの冬期に葛粉は作られる。葛は今でも自生している葛根を掘起すが、もうこの辺の山々で葛根を採ることはできないのである。 それは、林業で植えられた杉を、繁殖力の強い葛がツルを巻きつけたり、おおいかぶさるなどして枯死させてしまうため、ついに山を追い出されたのである。だから現在葛は熊本や鹿児島から送られる。 それも葛根そのものではなく、葛根をつぶし水で洗いほぐして絞り、繊維を除いた液を放置して沈殿させた、まだ色も黒くあくの強いデンプンの状態である。
葛根は掘起しですぐにつぶさなくては自己消化を始めてブドウ糖になってしまう。それに葛根の10分の1しか葛粉は採れない。だからデンプンという状態で運ばれる。

運ばれたデンプンは地下水を用い、葛とかき混ぜ沈殿させ、上澄みを捨てブロック大に切ってとり出し、再び水を加えてかきまぜる。この工程を7,8回繰り返しその間に不純物を選別し、 真白に精製沈殿した葛を手割りし自然乾燥室に入れ50日間ほど置き、ようやく製品ができあがる。

実は葛粉作りが冬に行われる理由はここにある。この葛をさらす水が冬も水であることが最も重要である。もし夏の水であれば気温の上昇とともに大腸菌などが発生するが、 冬の水は寒の水ともいい全く無菌質の水である。この水をたっぷり用いて何度も晒すことであの雪のように白く光る葛が出来上がるのである。

現在葛は和菓子や日本料理などの高級なイメージがあるが、昔は非常食でおかゆに混ぜて粘りを増やし量を増やしたり、葛湯として風邪のひきかけに食したりした。 今一度、家庭でもっとこの葛を取り入れてはどうだろうか。


奈良の食文化研究会:今田 志乃



葛焼き

<材料>
・葛粉100グラム
・まぶす葛粉適量
・グラニュー糖100グラム
・水400cc

<作り方>
@グラニュー糖に水を加え、なべで煮溶かす
A葛粉をふるいにかけるか、おろして粉末にしてから、先の鍋に加え、強火でかき混ぜる
B粘りが出てきたら、透明度が出て、鍋底から葛がはがれるようになるまで練る
C型に流し込み、2時間ほど置いて固める
D型から出して適当に四角に切って、表面に葛粉をまぶす
Eテフロン加工(または油を引く)のフライパンで色が付くまで焼いて出来上がり