奈良盆地の大和郡山市、天理市、明日香村、高取町などでは今、特産のイチゴの出荷が最盛期を迎えている。
天理市の市街地を抜け、少し南下した辺り一帯は、かつて幾多の歴史の舞台となった当時の面影も今はなく、のどかな田園風景が広がっている。イチゴ栽培のビニールハウスが点在し、夜、高台から眺めると、電灯のともされたハウスが白く浮かんで美しい。
天理市岸田町のイチゴ栽培農家、吉村さんのビニールハウスにおじゃました。朝の忙しい作業中で、夫婦で収穫用のキャリーを押しながら、イチゴをつんでおられた。
ハウスの中は、外気の冷たさに比べ、ポカポカとして暖かい。甘い香りの漂う中、ガラスのようにつややかで、みずみずしいイチゴがハウスいっぱいに実っていた。
片隅に置かれた木箱には、受粉用に放されているミツバチがいて、ハウス内を元気に飛び交っていた。満遍なく受粉が行われることで、形の良いイチゴができるという。
ハウスでは二品種を栽培しており、「とよのか」は円すい形で甘味と酸味のバランスがよく、香りも高い。「あきひめ」は紡すい形で新品種「あすかルビー」もあり、まろやかな甘さが特徴。
つみ取り方を教わって、イチゴをいただいた。甘酸っぱい香りが口の中に広がり、顔がほころんでしまった。貴重な体験をすることができた。
イチゴは新鮮さが命。肉質を傷つけないよう、早朝のつみ取りから箱詰め、出荷まで素早くしなければならない。出荷先は、主に県内全域と大阪、神戸方面という。
吉村さんご夫妻からは後継者不足や高齢化などの課題もうかがった。中腰のつみ取り作業は重労働で、現在、立ったまま作業ができる「ベンチアップ方式」という新しい栽培法の施行も始まっているという。
ハウス栽培の普及や育苗技術の進歩、より甘く、大きくという消費者の要望を受けて、旬の時期は拡大し、新品種の開発も進んだ。
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