木々が芽吹き、桜のつぼみがふくらむころ、法隆寺では、「お会式(えしき)」で春を迎える。
それは、毎年三月二十二日から二十四日にいたる三日間、聖霊院(しょうりょういん)で行われる「聖霊会」のこと(聖徳太子の命日にその遺徳をたたえ供養する法要)を言う。
昭和の初め、農作業の大変盛んだったころ、会式には、農休みといって、村中が仕事を休んだ。
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法隆寺さんへおまいりし、よもぎ団子や、もち、ブリの照焼きなど、ごちそうを食べて体を休め、次の激しい労働に備えて体調を整えた。また親せきへも「呼びづかい」と称して重箱に入れたよごみ(よもぎ)のあんつけもちを配り、来てもらってもてなした。
今もよもぎ団子を作っている人がいると聞いて法隆寺へ出かけた。お会式が行われる聖霊院は春の光をうけて静かなたたずまいを見せていた。西大門を出た所の西里近くに古くからお住まいの方々をお訪ねすると、「毎年お会式のころには、よもぎ団子をつくり、近所のお友達に配って、春を味わっています」とのこと。
また、もうお一人の方からは、「当時はその時期になると、自転車でくる魚屋さんが『子持ちのかますご』を売りに来て、それを酢につけたものを芯(しん)にして巻きずしを作った」ともうかがった。
後には、畑で取れた、ニンジン、ホウレンソウ、カンピョウ、コウヤ、シイタケ、卵焼きなどもいっしょに巻いたと聞いたが魚と野菜などのバランスのとれた食生活の工夫は現在にも生かしたいものだ。
聖霊院においてお会式で聖徳太子に捧(ささ)げられるお供物に「大山立(おおやまたて)」と呼ばれる珍しい習慣がある。
中央の花形壇と呼ばれる台の上にかやの実、干し柿、銀杏(ぎんなん)、紅白寒天、くわい、大豆、黒豆、青豆、ほおずき、もち、米の粉で作った猫の耳のような形をしたものなどがそれぞれ、小さな三宝に盛って飾られる。
その左右に米の粉を蒸して作った梅や水仙の形をしたもの、みかん、柿揚げ(干し柿を米の粉と水としょうゆでといた衣に包んで油で揚げたもの)などを杉の葉を刺した台に飾る。
上部には、割り竹の先に、米の粉を蒸してもち状にしたものを鳳凰や燕(つばめ)の形をとり彩色を施したものを飛び交わせ、天井まで届きそうな一対のヤマで須弥山(しゅみせん)を象っている。文献によると、この供物は、鎌倉時代以来の古式を伝えるもので、仏教行事に関連する食生活の貴重な資料と言われている。
初めてこの供物を見た時、その美しく珍しい飾りに感動した。
お会式の期間中、境内にはたくさんの露店が並び、にぎわいをみせるが、聖霊院のすばらしい飾りなどはあまり一般には知られていない。ぜひ参拝し、永らく続いている伝統文化にふれるもよし、あぜ道で香り高いよもぎをつむのも楽しい。
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