二月と言えば木枯らしが吹き、雪が舞う寒い冬の景色が思い浮かぶ。しかしこの寒さの中でも春を迎えるうれしい行事がいくつかある。 まず節分がある。立春の前日を節分といい、字からしても、徐々に春に向っていく気持ちになる。
節分はいわしを食べ、豆まきをするのが慣わしであるが、近頃では巻ずしを丸かじりにすることしか知らない若い人たちもおり驚く。 そしてもう1つの行事は初午(うま)である。
初午は2月初めの午の日をいい、稲荷の祭日とされている。稲荷神は農耕神としてはもちろんのこと、豊漁を願う漁業の神、商業の神、ひいては鍛冶の神として広く全国的に普及している。

稲荷神を奉祀する稲荷神社は各地にあるが、家の神棚に祀るほかに、邸内や地域などの屋敷神として祀られていることも多く、「おいなりさん」と親しみをこめて呼んでいる。 また、稲荷神の使いはキツネとする民間信仰が強く、キツネが油揚げを好むという説から、油揚げにすし飯を詰めたものをいなりずしという。

大和高田市や橿原市あたりでは初午の日に、神棚に油揚げやいなりずし、「おあげさんとダイコンにたいたもん」などを供える。時には生の鯛を供えていたこともあったとか。 そして近所の子供たちに「旗の飴」を配る。子供たちはお稲荷さんを祀ってある家に行き「おばちゃん、はたのあめちょうだい」などと一軒づつまわって飴をもらってくる。
「旗の飴」は、長さ30センチほどの竹の棒と紙で作った幟のおもちゃで、棒の先端に砂糖飴がついている。 中年以上の人はこの飴を見ると子供の頃にかえり、なつかしい昔話が次々と出てくる。その日が待ち遠しかったことや翌日集めた旗の数を競い合ったりしたことなど思い出話が尽きることがない。
今も旗飴は配られるが、食べ物が豊富な近頃の子供はあまり関心がないようだ、どうしてこのときに旗の飴なのか何人かに尋ねたがよく分からなかった。神社の祭日には幟の旗が立つことが多くあり、 そこから由来していると推察される。

最近町で見かけるいなりずしは、形もこぶりであったり、長方形であったりするが、本来いなりずしは大きな三角形をしている。 油揚げは少し甘めに味つけし、中のすし飯の具も残りのものを入れてもおいしくできるので、手軽に作って食べることをお勧めする。 初午のこんな楽しい風景もしだいに見られなくなり、伝統の文化が消えそうで寂しい。今年の初午は2月6日。大和高田市の岡崎稲荷神社では今年も旗飴が配られることだろう。


奈良の食文化研究会:澤田 参子



いなりずし

<材料>(8個分)
・米1カップ
・水220cc
・かけ酢(酢大さじ1.5、砂糖小さじ1、塩小さじ1/2)
・寿司用角揚げ4枚(だし汁150cc、しょうゆ大さじ1、砂糖大さじ2)
・ゴマ10グラム(あれば麻の実もよい)
・ゴボウ15グラム
・ニンジン15グラム
・シイタケ2枚

<作り方>
@米が炊けたら酢をかけ、すし飯をつくる
A油上げは三角に切り、表面を軽くたたき袋状にはがし、熱湯をかけて油抜きをし、だし汁、調味料で煮る
Bゴボウはささがきにし、ニンジン、シイタケは小さく切って煮る(だし汁1/2カップ、しょうゆ小さじ2、砂糖大さじ2)
C飯にゴボウ、ニンジン、シイタケ、いっておいたゴマをよく混ぜる
D飯を軽く握り、油揚げに詰めて皿に盛り、紅ショウガを添える